ドラマ「極悪女王」が絶好調スタート 絶賛の嵐を呼んだ「全女ブーム」のリアルすぎる描写
プロレス界の暗黙のルール
当時、プロレスを「真剣勝負」と信じて疑わないファンが多い中、特に勘のいいファンの間で“試合における段取りや、勝敗の付け方についての台本”の意味でささやかれていた「ブック」をめぐる描写でもそのことが分かる。 「選手や関係者はこの言葉を使っていませんでしたが、劇中の台詞にたびたび登場しています」(当時を知るプロレス業界関係者) ある地方での興行。凄まじいクラッシュ人気に対し、「実力ナンバー1」を自負する先輩のジャガーは不満を募らせ、クラッシュとのタッグマッチの前に「ブックなしでやらせて」と懇願する。ブックではジャガーが長与からフォールを取ることが決まっていたが、ジャガーは試合直前、自身の付き人を務めたことから、かわいがっていた飛鳥に「今日はブックなしで来て」と伝え、飛鳥もその意向を長与に伝えた。“ガチンコ”となった試合は白熱。試合を見ていた国松と俊国は、あろうことか、どちらが勝つかに3万円ずつ賭け、最後は長与がサソリ固めでジャガーをギブアップさせて勝つ。 俊国氏はクラッシュに賭けて勝ったにもかかわらず、国松氏に 「兄貴、ちゃんと千種に“クンロク”入れといてね。ブック破りはブック破りだから」 ここで使われた「クンロク」とは、相手に強く言い含めることで、不良や反社会勢力の間で「強烈な脅し」の意味として当たり前のように飛び交う俗語である。国松氏がロッカールームに駆けつけると、ジャガーのタッグパートナーがブック破りを理由に長与を制裁中だった。国松氏はそれを止めつつも、「ブック破りやがって、横田にちゃんと詫び入れろ」と長与を諭すと、長与は「嫌です」と拒否。飛鳥も加勢し、「今、全女で客呼んでんのクラッシュですよ」と食ってかかる。すると、国松氏は飛鳥にビンタをお見舞いし、こう言う。 「なめた口たたきやがって。テメーらがいくら、人気あったってな、相手がいねーとプロレスになんねーじゃねーかよ」 「プロレスの基本は、相手が技を受けてくれてからこそ成り立ちます。自分がやりたいようにやっては試合が成立しません。にもかかわらず、会社ぐるみでほかのレスラーに神輿を担がれてスターになったのがクラッシュの2人。いわば天狗になっていたようなもので、俊国氏とともに選手の育成を任されていた国松氏が一発かました、名シーンでした」(前出・ベテラン記者) ほかにも、テレビの視聴率のためにブックを決めたかと思えば、高給で力の落ちた人気レスラーを、実力のある後輩とブックなしでやらせ、人気レスラーを負けさせて“引導”を渡すシーンも。 「何より松永兄弟が思い通りにしていたのが、選手たちが汗と涙と血を流して稼いだ金です。会社がいくら儲かろうとも、儲かった分=松永家の金なので、選手たちへの分配は決して多くはなかった。言うなれば、昭和版の『女工哀史』のような状況でした」(同前)