「何人でもいる」...ライシ大統領の死の影響がほぼゼロなのはなぜか
歴史から読み解く次期大統領
しかしこれらの問題にもかかわらず、イランの権力の力学の性質により、新政権への権力移行が国の安定に大きな影響を与える可能性は低い。 イランの政治システムは最高指導者の下、相互に関連した複数の集団で構成されている。主なプレーヤーを1人失っても、その穴を埋められる他のプレーヤーが何人もいる場合、大きな混乱は生じない。 選挙が行われるまではモハマド・モクベル第1副大統領が大統領代行を務める。その間、ハメネイに近い保守グループが、波風を最小限に抑えた円滑な政権移行を目指し、彼らにとって好ましい大統領候補を選ぶだろう。 ハメネイはX(旧ツイッター)に次のように投稿している。「行政が混乱することはないので、国民は気をもむ必要はない」 一方、歴史的に分析してみると、イランの指導層は保守派と改革派や穏健派が交互に登板してきたパターンが見られる。それがイラン政治にバランス感覚を生み出し、政権の公的正統性を高めてきたといえる。 従って、たとえライシの後継者が保守グループによって内々に指名され、支持されるとしても、その人物はより穏健な立場をある程度、体現する可能性はある。 現国会議長のモハマド・バケル・ガリバフや元議長のアリー・ラリジャニなどはどちらも保守穏健派で、この筋書きでは適任となるだろう。 ライシは在任中、外交政策を中東寄りにシフトし、それを最優先事項としてきた。これは西側諸国との関係正常化を優先したハサン・ロウハニ前大統領の時代からの転換だった。 例えばライシ時代、イランはイラクなどの仲介でサウジアラビアと5回にわたり交渉し、昨年3月の歴史的な両国の関係正常化につながった。 当時、イラク首相の戦略コミュニケーション担当顧問を務めていた筆者には、イランが近隣諸国と戦略的・長期的かつ強固な関係を築くことに真剣なのは明らかだった。 こうした姿勢での交渉の結果、イエメンにおける長期にわたる内戦は終結に向かい、アラブ諸国とシリアの関係正常化は促進され、イラクの安定強化にも貢献した。 さらにイランは最近、イラクの再びの後押しでヨルダンおよびエジプトと実質的な交渉に入っている。これらの取り組みは、この地域を長年支配してきた宗派間の対立を乗り越え、より大きな協力関係の基礎を築く機会をもたらしている。 またライシの任期中、ハメネイ主導の戦略的かつ長期的な「東方」への方向転換の下、イランは中国とロシアとの関係を深めた。一方、ロウハニ時代とは交渉戦術が異なるものの、核開発計画をめぐって西側諸国との対話も続けていた。 イランの外交政策は新大統領の下でも変わらないだろう。墜落事故で外相も落命したことを受けて外相代行に任命されたアリ・バゲリ・カニ副外相は、ライシ政権下の核交渉で重要な役割を担ってきた人物だ。この人事は外交政策の継続性を強化するものだといえる。 さらにイランと近隣諸国との接近は、孤立状態からのより恒久的な移行を示唆している。関係改善の機運は短期的には続く見込みだ。 The Conversation Ali Mamouri, Research fellow, Middle East studies, Deakin University This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
アリ・マムーリ(豪ディーキン大学研究員)