脳腫瘍の手術AI支援 金大病院・油野技師研究グループ 切除範囲を絞り込み、後遺症の有無予測
●再発防止と術後回復を両立「患者に安心を」 金大附属病院検査部・臨床検査技師の油野岳夫副主任ら研究グループは23日までに、人工知能(AI)を活用し、脳腫瘍の切除範囲を絞り込む手法を構築した。AIが過去の手術症例を学習し、手術中の脳の波形や数値を基に後遺症や合併症を予測することで、切ってはいけない部位の見極めを支援する。腫瘍の再発防止と、術後の円滑な身体機能の回復の両立につなげる狙い。 脳腫瘍の手術では、再発を防ぐためにがんを最大限取り除きながら、回復後の体のまひなどの合併症を防ぎ、生活の質を保つことが重要になる。 金大附属病院では、検査技師が全身麻酔中に脳へ電気刺激を与え、視覚や聴覚など体の反応を観察している。このうち、筋肉の動きを見る「運動誘発電位(MEP)モニタリング」で切除範囲の絞り込みの研究を行った。 ●波形の乱れを学習 同病院で年間約180件前後実施しているMEPモニタリングでは、手術中に運動に関わる脳の部位を圧迫した場合、波形の乱れが生まれ、術後に体のまひが残る可能性が上がるサインとなる。こうした乱れが生まれないようにすることが、切除範囲の絞り込みにつながる。 ただ、この波形は血圧や体温などさまざまな要因で変化するため、正確な予測が難しかった。 油野氏らはAIに2016年4月~21年2月に実施した手術129症例について、MEPモニタリングの波形を学習させた。その後、21年1月から今年3月までの28症例について、学習を基に切除範囲の絞り込みが可能か検証した。 研究グループは他の施設でも研究を行い、さらに症例を積み上げる必要があるとしている。油野氏は「さらに研究を進め、患者が安心できる手術に役立てたい」と語った。 ●北國がん基金助成 研究は2022年の北國がん基金の助成を受け、金大医薬保健研究域医学系の中田光俊教授、同医学系の木下雅史講師らも参加した。研究成果は11月、米医学誌に掲載された。 ★術中モニタリング 全身麻酔下の手術中に脳脊髄・神経機能を評価し、体のまひといった術後の合併症の予防を目的とした手術支援業務。金大附属病院では、検査部の臨床検査技師が担当している。脳に電気を流して運動機能を観察する「MEPモニタリング」や、患者の目を覚まして行い、言語機能の温存につなげる「覚醒下手術」などがある。