【社説】議員の海外視察 福岡県議会は常識外れだ
今もって海外視察の報告書を公開していないとは、あぜんとする。福岡県議会は報告書の作成と公開のルールを早急に定めるべきだ。 4月に福岡県議会が6泊9日で実施したアフリカ・中東視察が物議を醸している。 主たる訪問先は南アフリカ・ケープタウンで、蔵内勇夫県議が次期会長になる世界獣医師会の大会に出席した。人と動物の健康や環境を一体で考える施策「ワンヘルス」を推進する目的があるという。 福岡市に事務所を置く国連人間居住計画(ハビタット)の本部があるケニア・ナイロビも訪ねた。 特に問題視されたのは、この2カ国の間にアラブ首長国連邦・ドバイに2泊したことだ。日程は急きょ追加され、出発前に視察の詳細が固まっていなかったという。必要な視察だったのか疑わしい。 視察には香原勝司議長をはじめ、議員5人と議会事務局の職員5人が公費で派遣された。費用は少なくとも1200万円を超えるとみられる。他にも議員11人が政務活動費などを使って同行した。 費用の多少にかかわらず、海外視察の行程、目的と成果などをまとめた報告書は県民に公開して当然である。ところが、福岡県議会にはその決まりがない。 香原議長は通常は公開しない報告書を取材各社に見せて説明をしたが、主権者である県民の目に触れないことに変わりはない。 議員の海外視察報告書の公開は常識だ。長崎県議会や鹿児島県議会は2023年度の視察内容をウェブサイトに公開している。福岡県議会は情報公開の意識が欠けていることを自覚すべきだ。 議員の海外視察は過去に何度も問題になった。近年も観光旅行と見まがうような香川県議会の視察に対し、裁判で旅費の返還命令が出ている。 住民の厳しい目を意識しているのだろう。海外視察の規模を縮小したり、見合わせたりする議会もある。 海外視察そのものは否定しない。行政とは異なる視点で政策立案に役立つ成果が得られるなら、行く価値はある。 議員のローカル外交にも意義がある。特に近隣国の地方議員との結びつきは、政府間の関係が悪化した時でも人的交流を下支えする。 いずれも詳細な報告書が公開され、住民が適否を判断できることが前提である。情報公開請求の手間をかけることなく、誰もがネットで手軽に読めるようにすべきだ。 福岡県議会は近く、海外視察を見直す議論を始める。九州の議会の中では海外視察をする議員数と費用が突出して多い。報告書の公開はもちろん、視察先の決め方、成果を政策提案につなげる仕組み作りも検討する必要がある。 報告書を作成するのは議員の義務だ。事務局職員に丸投げしてはならない。報告書を書かない議員に公費で視察に行く資格はない。
西日本新聞