迫るクマの脅威 街中に出没する「都市型」増加 後絶たぬ人身被害 自治体は最大警戒
■生息分布拡大、人との距離に狂い
人里への警戒心が薄いアーバンベア。環境省によると、令和5年度のクマの出没情報は2万4345件で4年度の倍以上に増加、過去15年間で最多の219人がクマに襲われ負傷し、うち6人が命を奪われた。今年度も出没情報は10月までに1万7988件(速報値)に上り、前年度の7割に達している。
人が生活圏でクマに襲われるケースも多発。令和5年度のツキノワグマによる人身被害の発生場所は4月はすべて森林だったが、冬眠直前の11月は約6割、12月も約3割が民家周辺だった。
酪農学園大学(北海道)の佐藤喜和教授(野生動物生態学)は、周期的に発生する木の実の凶作が各地で重なったことが要因だと指摘。人口減少による耕作放棄地の増加でクマの生息分布が拡大しているとみている。
元来クマは臆病で、人間には近づきたくない性質がある。手入れされた田畑はクマにとって居住空間の森林とは異なる景観で警戒心があり、距離が保たれてきた。
しかし、高齢化や後継者不足などにより農家の数が減少。放置された田畑がクマの生息する藪(やぶ)や林となり、生息しやすい環境に変化した。実際、荒廃農地は平成25年は9530ヘクタールだったのに対し令和5年は1万4400ヘクタールまでに広がっている。 国は手つかずとなった農地の再生を進めているが、山間の農地ほど再生されないまま放置されている場合が多いという。佐藤さんは「人間の居住環境が狭まることは野生動物の生息域が広がることと同義」とクマの行動範囲が広がっている可能性を指摘。「生活圏周辺に定着するクマを減らし、クマの居住エリアを森林側に戻す対策をとることが求められる」と話した。(鈴木文也)