技術者の倫理観欠如 和歌山・八郎山トンネル施工不良問題で報告書
和歌山県串本町と同県那智勝浦町を結ぶ八郎山トンネル(全長約710メートル)の施工不良問題で、県が設置した有識者らによる同トンネル技術検討委員会は、施工不良の原因や再発防止策などを盛り込んだ報告書をまとめた。県は、報告書を県のホームページで公開する予定。 報告書では、同トンネル工事を受注した県内建設大手の浅川組(和歌山市)や堀組(田辺市)へのヒアリングの結果などから、施工不良の原因として、測量技術が未熟でずれが生じたほか、コンクリート壁の厚さやトンネル内部を支えるアーチ状のH型鋼「支保工」の設置位置の確認不足があったことなどを指摘。背景には、浅川組の技術者に倫理観が欠如しており、工事の指針や基準に基づく施工の不履行があったとした。堀組はトンネルの本体工事にあまり関与しておらず、トンネル外でモルタルのプラントや盛り土の管理を行っていたという。 県の監督体制や工事検査体制については、工事監督者となる職員の育成体制ができておらず、施工業者とのコミュニケーション不足があったと言及。再発防止策として、現場での監督や検査の強化、監督員の技術力強化などを挙げた。入札制度で施工体制や品質を重視することも提言し、事前審査で工事体制を確認するなど「施工体制確認型相互評価」を行うとした。 同トンネルは令和2年9月に着工、4年9月に工事が完了し、5年12月に開通予定だった。しかし、4年12月に施工不良が発覚。コンクリート壁の厚さが調査範囲の約7割で基準を満たさず、支保工(約700カ所)のほとんどが正確に設置されていないことが判明した。県も、本来68カ所で計136回の検査を行う必要があったのに「要請がなかった」(県)として6回しか検査していなかった。 同委員会は「掘削以外の工事を全面的にやり直す」との異例の方針を決定。再工事が現在行われている。工事費は浅川組が負担し、工期は約2年の見込み。 八郎山トンネルの施工不良問題で、岸本周平知事は5日行われた定例記者会見で、開通時期の遅れなどで生じた逸失利益について、業者側に請求する方針を示した。