ホロコーストの犠牲になった少女アンネ・フランクの短い人生と「その後」
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「成熟した大人になりたい」「恋人がほしい」と願っていたアンネでしたが、隠れ家で恋に落ちました。相手は同居していたファン・ペルス夫妻の息子ピーター(同居当時15歳、日記での記載名はピーター・ファン・ダーン)です。 同居開始直後こそアンネはピーターのことを「まぬけ」「怠け者」と綴り、興味を持たなかったようです。しかし2年ほどたった頃からピーターの優しさと誠実さに惹かれるようになり、恋心が芽生えます。屋根裏で話す時間を大切にする若い2人に、両親は気づき心配していました。 初めてピーターとキスをした日のことも、日記に綴っています。 1944年4月16日(日) 「親愛なるキティ、昨日の日付を、忘れないでいてね。私にとって幸せな日だったから。ファーストキスをした日は、すべての女の子にとって大切な日に決まっているわ。だから私にとっても重要な日なの。(中略)どうして突然、キスをすることになったのか、今からあなたに教えてあげるわ」 そしてその日の夜8時から9時半まで、屋根裏でのデートの一部始終と、そのときのこの上ない幸せな気持ちを書き記しています。 しかし意外なことに、このキスの後、アンネの気持ちは冷静になっていくのです。ファーストキスの興奮を描いた翌日に、すでに意外な言葉を残しています。 1944年4月17日(月) 「私を待っている人がいるということは、とても素晴らしいこと。でも…そこには『でも』があるんです」 アンネは隠れ家生活によって自分について考える時間を長く与えられたことで、人より早く「独立した大人」になったと感じていました。アンネの愛情をまっすぐ求めるピーターに子どもっぽさを感じ、また心配する両親を裏切りたくないと強く思うようになります。 1944年7月8日(土) 「彼に近づくために私は親密さを利用し、そうすることで友情を排除してしまったのです。彼は愛されることを切望しており、日を追うごとに私を好きになっているのがわかります。一緒にいると、彼は満たされた気持ちになるでしょう。でも私はすべてを始めからやり直したくなるのです」 「やり直したい」とは、ピーターに対してなかなか辛辣な言葉ですが、14歳の少女が自分の立ち位置を見つめ、必死に考え、そしてこの恋から一歩引こうとしている様子が伺えます。心地よい感情に流されることなく、自分が正しいと思うことを貫こうとする強さが感じられる箇所です。