想田和弘監督「野良猫が歩けない社会が幸せなのか」 NYから移住した牛窓で葛藤
『選挙』『精神』シリーズなどのドキュメンタリー映画で知られる想田和弘監督が12日、千代田区丸の内の日本外国特派員協会で行われた新作『五香宮の猫』(ごこうぐうのねこ)の記者会見に登壇し、猫を通じて人間社会を見つめる本作について語った。 『五香宮の猫』ビジュアル 台本、ナレーション、BGMなどを排したドキュメンタリー「観察映画」第10弾となる本作は、27年間住んだニューヨークを離れ、岡山県瀬戸内市の小さな港町・牛窓に移住した想田監督と、妻でプロデューサーの柏木規与子が、日々の暮らしの中で町の人々や猫たちと出会うさまを描き出す。ベルリン国際映画祭をはじめ、各国の国際映画祭に正式招待されている。
想田監督の『牡蠣工場』『港町』にも登場した牛窓に移住した夫妻。猫好きでもある二人は、路頭に迷っていた野良猫の兄弟(茶太郎とチビシマ)を保護せざるを得なくなり、そこから地元の猫の保護活動に関わる人たちに関わることとなる。冒頭、司会者から「茶太郎くんたちは今でも元気?」と猫たちの近況を尋ねられた想田監督は「今でも元気です」と笑顔を見せると、「ただし映画に登場する家は借りている家なので、ペットを飼うのは禁止なんです。だから家に住まれては困るというような描写がありましたが、今は編集に使っている別宅があって。そこはペットオーケーなので、茶太くんとチビシマくんと仲良く暮らしています」と明かした。
記者からは「本作では猫を通じて住民同士のコミュニティの衝突が起きている」との指摘も。街の外から猫に会いに来るような猫愛好家や、猫を観光の目玉にできないかという人もいれば、餌やりによって糞などの問題に悩まされる住人、猫に不妊手術を施そうとする人など、住民の考えもそれぞれだ。そんなことを通じて「監督の見解は?」と求められた想田監督は、着用していた猫のTシャツを見せながら「僕は猫が大好きです!」と笑顔を見せ、「だから猫がいなくなるのはさみしいなと思います。その一方で猫の糞尿問題を考えるべきだという、その立場も分かります。僕たちは猫の避妊去勢活動に参加してはいるんですが、それは自然に逆らった暴力的なプロセスなので猫は苦しみます。だからこの活動が正しいのかどうか分からない状況なんです」と語る。 そして「ただ避妊去勢手術をすると、あっという間に猫はいなくなっていきます。それは世界中の先進国、どこでもそうだと思います。つまり街中が、社会が、より制御され、清潔である社会においては、こういう猫のようなイレギュラーな存在であったり、制御下に置けないような存在が生きる場所がどんどん狭くなっているのではないかと思うのです。そんな社会、野良猫が歩くことができない社会というのが幸せなのか。僕の中では非常に大きな疑問を持っています」とも。