山里亮太 M-1王者・令和ロマンのABC挑戦に感じた、賞レースに対する意識の変化「僕には分からない、才能がある人間にしか見えない選択肢」
「第45回ABCお笑いグランプリ2024」決勝戦が本日7月7日(日)昼1:55より開催、その模様はABCテレビで生放送されるほか、ABEMAでも無料生配信される。結成10年以内の若手芸人による、漫才・コント・ピン芸何でもありの本大会には、568組がエントリー。決勝には、金魚番長、ぐろう、ダウ90000、天才ピアニスト、青色1号、エバース、フランスピアノ、やました、かが屋、ぎょねこ、フースーヤ、令和ロマンの12組が残った。今年で5年連続MCを担当する山里亮太に、本大会の見どころ、当時の思い出、賞レースに対する気持ちについて語ってもらった。 【動画】令和ロマン「ABCはみんな本気なのがいい」ほか決勝進出者12組が意気込みを語る ■令和ロマン、かが屋、ダウ90000…この代で優勝する人はすごいチャンピオン ――MCを担当するのは今年で5年目になりましたが、率直な感想を教えてください。 とんでもないスターが生まれたり、お笑いの最先端がどこよりも早く世に出る瞬間を見届ける場所なのでワクワクするんですよ。毎回、こんなコンビがいるんだ、こんな面白い人がいるんだと衝撃を受けています。今回も準決勝を見させてもらったんですが、初めて見る人たちもいっぱいいて。面白すぎるって涙流して笑ったコンビもいます。 そんな人たちが出る決勝戦なので、僕はみんなが気持ちよく感想を言える場を作れたら。昔、M-1グランプリに出る際によゐこの有野(晋哉)さんから「ネタができるのは当たり前、その後にオマエたちが目指す世界のカギが落ちている」と言われたことがあって…。本当にそうなんですよ。なので、僕はみんなが持っているカギをカギ穴へスムーズにサポートする役割ができれば。平場はダメだと思われる人を1人も出したくないというのが、この大役を毎年任してくれるABCに対する恩返しだと思っています。 ――今年は、M-1チャンピオンの令和ロマンさんが出演するなど、かなりハイレベルな戦いが見られそうですが…。 レベルは毎回めちゃくちゃ高いんですが、ここまでくるかって感じですね。そして令和ロマン。ABCお笑いグランプリは面白かったら何でもありなので、M-1チャンピオンにコントが勝つ…なんて瞬間も見られるかも知れない。なんか見ている側としたら勝手に色んな戦いを想像しちゃって楽しみが止まらないです。 ただこの代で優勝する人はとてつもないチャンピオンになるはず。確実にこれからのお笑いをかき回していくスーパースターが生まれる年なんで。令和ロマンが勝ってもすごいし、彼らを倒したらそれはそれですごい。M-1チャンピオンを倒した称号まで得るチャンスがあるわけですから。みなさんがどういう戦いを見せるか、今年も大波乱必至です。 ――令和ロマンさんをはじめ、THE Wチャンピオンの天才ピアニストさんやかが屋さん、ダウ90000さんらテレビで活躍されている方も名前を連ねています。 豪華すぎます。ただ、ABCお笑いグランプリって名前が売れているのが追い風になることが少ないんですよ。勝手にハードルが上がって、めちゃくちゃ期待されてしまう。ただ、準決勝を見た限りでは、自ら日々上げたハードルをちゃんと越えていたので、スゴいなって言葉しか出なかったですが…。みんなスゴいネタを作っているんですよ。 それに対して、そこまで名前が知られていない人たちがジャイアントキリングを狙う面白さもあります。やましたは初めて見ましたがめちゃくちゃ達者で面白かった。友近さんのように己の力だけで出てくる女性ピン芸人で、ワードセンスもスゴくいいんですよ。勉強になりました。あとフランスピアノも、あんなネタ思いつかないって思うし…。それが一堂に会するって普通に考えてすごいですよ。 ■漫才、コント、ピン芸…有利なのはどれ? ――漫才、コント、ピン芸など何でもありなので出順も大事になりますよね。 コントはド派手でインパクトを残しやすく、その後の漫才はどこか寂しげに見えるんですよ。ただ、それを昨年は令和ロマンが吹き飛ばして…。本当に読めない。コントは始まったら取り返しがつかないけれど、漫才は途中で軌道修正したり乗ってきたら空気を持ってくることもできる、ピンネタはコントに近いけど笑いを取るとカッコよく映るよさもある…。みんなそれぞれの魅力があるので悩ましい。ただ順番はすごく大事だと思います。 ――ブロックごとに4組が戦って、そこで勝ち上がった3組がファイナルステージで戦うというルール。この組み合わせの妙も勝敗に関係しますよね。 本当に順番と巡り合わせが関係する大会で。ファイナルで同点になるとファーストステージのブロックでの得点が勝負に関係するので、ファーストステージが死のグループで接戦で勝ち上がってきたらファイナルでは不利になってしまうんですよ。 昨年、令和ロマンはそれで負けて…。運も実力のうちなのでなんとも言えないですが、僕だとめちゃくちゃ気にするはず(笑)。まぁみんなは天才なのでそんな細かいことを考えず、圧倒的に投げ倒すという気持ちでくるとは思いますが。どんなことも実力でねじ伏せるそんな姿を楽しみにしています。 ――今の山里さんはどのブロックに入ったら有利か…みたいな計算をするとのことですが、出場していた当時もそのような考えをしていましたか? 当時は、まだ当たって砕けろという思いだけでやっていましたね。ただ売れたいだけだったんで。僕が優秀新人賞をもらえたのは結成2年目。本当に自分のネタを信じてやるだけでした。でも、あのときの僕が今回の準決勝にいたと考えたら恐ろしいです。絶対に残れない。本当にこんなにもセンスバキバキのネタをよく思いつくなって感じます。 まぁ僕が出ていた頃は結成5年までしか出られない大会だったので、みんな荒削りのよさがありました。それが今は10年になって完成形が山ほどいる。そこに5年未満で戦っている人たちって本当にすごいですよ。 ――今年はM-1チャンピオンである令和ロマンさんが出ることが大きな話題になっていますが、山里さんが出ていたころと比べて、賞レースへの意識の変化を感じることはありますか? 令和ロマンはここで獲ってもまだ賞レースに出続けるのかな? なんか才能がある人間にしか見えない選択肢で僕には分からない世界なんだと思います。僕らにとって賞を獲ることは、時間の決まった漫才をすることや優劣をつけられて悲しい思いをすることからの解放だったので。 ただ最近はTHE SECONDという恐ろしい賞レースができてしまって…。キャリアを重ねたからって逃がさないぞっていう。なんていうものを作ってくれたんだ、冗談じゃないって気持ちでいっぱいです。 ――未だに賞レースに対する躊躇する思いがあるんですね。 怖いですよ。THE SECONDが盛り上がっているとき、相方が出たそうにソワソワしていたんで水を掛けましたから。僕はやっぱりM-1 2005での圧倒的最下位を獲った地獄の記憶がはっきりと残っているんですよ。 あの瞬間って、一応その年のベスト10ではあるんですが、日本で一番面白くない人間って言われている気がして。その恐怖と今まで築き上げてきた自信が根こそぎ持っていかれる感じがトラウマ級なんです。お笑いが怖くなりましたね。一応、2008年に再び決勝にいけましたが記憶は変わらない。賞レースって超ハイリスク超ハイリターンですよ。 ――改めてこの場に立っている若手のスゴさを感じる瞬間でもあるんですね。 みんなを見ているとシンプルだけど、頑張ろう、頑張らなきゃいけないなっていう刺激を受けます。もちろん面白い若手が次々と現われる怖さもありますが…。爆発的にセンスのある人たちって今後も生まれ続けますが、その最前線を見られるのがこのABCお笑いグランプリ。この大会は決して何かの前哨戦ではなく、お笑い界の新しい時代の幕開けとなる最初の鐘の音というか、次はこんなにスゴいものが始まるぞっていうお知らせに近い存在で。だからこそワクワクして目が離せないんだと思います。今年も一番いい席で楽しみたいです! 取材・文=玉置晴子