『ブギウギ』草彅剛が繊細な演技で体現してきた羽鳥善一 その“変わらない”魅力とは
麻里(市川実和子)の存在の重要性
羽鳥の変わらなさは、どんどんヒット曲を作り上げていく天才的作曲家としての側面以外、夫としての側面でも強調されてきた。妻の麻里に基本的に育児に関する全てを任せる様子は、スズ子が初めて自宅を訪れた第29話から変わらない。この回を見返すと、あの頃は羽鳥と麻里の間には長男のカツオしか子供がいなかったし、その後の放送で描かれた「父親の話し方を真似する」特徴もすでに初登場時から盛り込まれていて、改めて本作のキャラクター設定の細かさと正確さに驚かされる。 今や3人の子を持つ羽鳥だが、麻里が3人目を妊娠中の時に上海にいたり、スズ子が妊娠した際にも祝福はするも何も考えていない発言を繰り返していたりと、妻に子供のことや家事を任せっきりな状態は出会った頃から変わっていない。そんな彼の無邪気すぎる言動にツッコミを入れる麻里がいて、彼女が逆に現代の母親に寄り添った価値観のキャラクターだからこそバランスが取れているのもある。ここでも面白いことに、麻里は羽鳥が“変わらなくてもすむような”立ち位置にいる登場人物なのだ。 「この人、本当に音楽のこと以外何もできないし、興味もないのよ」 世の中がどんな状況でも、主人公のスズ子がどれだけ変わっても、師の羽鳥が羽鳥のままであり続けるからこそ彼女が感じられる安心感と信頼。物語において、つい成長しがちで変わりがちなキャラクターが多い中、彼の“変わらなさ”は大きな価値があるのだ。曲のインスピレーションが降りてきたらどんなところにいようがメモを取ることを優先してきたし、まるで子供のようにワクワクして作曲を続けてきた。時には曲がヒットしすぎて忙しくなったり、作曲に躓いたりする場面もあった。しかし、音楽の天才として羽鳥は“羽鳥”をやり続けていく。それがスズ子にとって、りつ子(菊地凛子)にとっての過去・未来・現在における支えなのだから。
ANAIS(アナイス)