K-1出場辞退でペナルティを課されても...小野寺力が貫く信念「日本発祥のキックボクシングをメジャーに」
「もちろんK-1は素晴らしいイベントではあるけど、(キックの各団体は)普段は仲が悪い感じで交わらなかったのに、舞台がK-1だと鼻の下を伸ばして嬉々としてやるというのはちょっと違うと思いました」 K-1のトーナメントで優勝すれば、高額のファイトマネーを手にすることができる。いい試合をすれば、自分の試合が地上波でも放送され、信じられないほどの知名度を得ることもできる。K-1から出場オファーがあれば、大半のキックボクサーたちがその話に乗る流れはある意味自然だった。 この時代、K-1に背を向けたキックボクサーを、筆者は小野寺と立嶋篤史しか知らない。小野寺はキックをやっているということにそれだけ誇りを持っていた。 「キックボクシングは日本発祥のスポーツ。ムエタイを真似たものではあるかもしれないけど、そこがポイントです。それをなんとかしてみんなで力を合わせてメジャーにしたかった。その気持ちは今も変わらない」 前述したアヌワット戦を最後に引退した小野寺はRIKIX(リキックス)というジムを興し、後進の指導とともにキックの普及に余念がない。 それと合わせ、現在は『NO KICK NO LIFE』というキックにこだわったイベントをプロモートしている。今年5月17日には〝格闘技の聖地〟後楽園ホールに初進出する予定だが、現役時代の生き方とは裏腹にプロモーターとしての視点は柔軟だ。 「以前、那須川天心選手の試合でヒジなしの試合を組んだこともあります。あれもこれもという感じでいろいろなルールを混ぜすぎたらわかりにくくなってしまいますけど、お客さんに喜んでもらうことが一番ですから」 傘下の選手が出場する試合に対しても、小野寺はフレキシブルな対応を示す。 「今の選手たちにキックだけを強制しようとは思わない。試合のオファーが舞い込んでも、やりたくないならやらなくてもいい。やりたいのであればやればいい。そこは全部選手本人に任せています。僕はその選手がどんなルールで闘ったら一番生きるかを考えたい」 先日、小野寺はK-1の創始者である石井和義氏と久しぶりに会う機会があった。過去の経緯があるからギクシャクした関係などということは一切ない。ざっくばらんに今後のキックボクシング界について語り合った。 K-1に背を向けた男は時代の流れを見極めながら、自らの信念を貫き続けている。 (つづく) 文/布施鋼治 写真/長尾 迪