「推理作家協会」将棋同好会が発足! ベストセラー作家たちが解き明かす将棋とミステリー小説の「共通点」
「いやあ~負けました」 将棋アマ二段の棋力を持つ本誌編集長が頭を下げる。熱戦を制したのは『ロスト・ケア』などの作品で知られる葉真中顕さんだ。2人とも興奮冷めやらぬ表情で、勝因と敗因を分析し合う。 【写真あり】将棋に熱中するベストセラー作家たち 5月14日、「日本推理作家協会」将棋同好会の練習会が開かれた。葉真中さんと共同代表を務めるのは、『奈良監獄から脱出せよ』の和泉桂さんだ。 「これまでは、タイトル戦をみんなでZOOM観戦してきました。集まって指すのは今回が2回めですが、ふだんはみんなネットで腕を磨いているようなので、対人で指すのは刺激的なんじゃないかな。チームで大会とかに出られるようになりたいです」 同好会は、文芸評論家の権田萬治(ごんだまんじ)さんが中心となって古くからあったが、会員の高齢化やコロナ禍で近年は活動を停止していた。和泉さんは以前からSNSで将棋好きを呟いており、それを見た葉真中さんが同好会復活を提案。2023年暮れに2人が中心となり呼びかけると、15名が賛同した。 会員のひとり、160万部を超すベストセラー『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』の七月隆文さんは、2024年の夏に実在の棋士をモデルにした本格将棋小説を刊行予定だ。将棋を主題にした作品『覇王の譜』の橋本長道さんは、プロ育成機関の奨励会に15歳から19歳まで在籍していた。現在はアマ六段の強豪で、同好会では指南役を務める。 「みなさん、自分で言うよりも強いですよ。『観る将』(観戦をメインに楽しむ将棋ファン)という観点では、僕よりも“上級者”ぞろいですね」 葉真中さんは、日本推理作家協会の理事を務める。協会内で、積極的にメンバーを募った。 「作家は孤独な仕事なので、こうして顔を合わせて指せる場があるのはいいなと思いました。将棋は毎日コツコツやることで、進歩が実感できる。精神衛生上、健康ですね」 練習会は午後1時から6時まで続き、その後は懇親会へと移る。『爆弾』などの直木賞候補作でも知られる呉勝浩さんは、人間ドラマとしての将棋に魅かれると語った。 「将棋は勝つか負けるか、残酷なまでにはっきりしている。人生を懸けてきたものに、負けを認めなきゃいけない瞬間が訪れるわけじゃないですか。ドラマとして見ていて、めちゃくちゃ魅力的です」 懇親会から参加した芦沢央さんが呉さんに質問を投げかける。 「詰将棋はミステリーに似ていませんか? さまざまな伏線が最後に絡んでくるところとか」 呉さんは詰将棋が苦手だと笑いながら、独自の“将棋小説論”を展開する。 「小説は将棋の戦法でいうなら“角交換”か“振り飛車”であるべきなんです。冒頭で大駒を動かすと緊張感が走る。じっくりと矢倉戦法とかやっちゃダメなんだよ」 角を交換すると、互いに打ち込みを警戒しなければならず、飛車を振ると急戦か持久戦など作戦の探り合いが始まる。これに対して伝統的な矢倉戦法は、序盤の変化が少なく、ゆっくりとした進行になることが多かった。これには一同から感嘆の声が上がった。呉さんは続ける。 「終盤戦は、本格ミステリーでいうところの謎解きなんだよね。その出来次第で評価が本当に変わってしまう。だから俺みたいに詰みが弱い人間はダメなんだよ」 桂さんから声が上がる。 「以前に、小説は評価値がなくてよかったと話されてましたね」。 現在の将棋は形勢をAIが示すことで優劣がはっきりと出る。呉さんは言う。 「小説は、逆に勝敗がはっきりしないから、つらいというのもある。人気がなくても質で勝てばいい、という世界でもない。将棋では、生涯に1回でも葉真中さんをギャフンと言わせれば、目標達成ですけどね」 写真/文・野澤亘伸
週刊FLASH 2024年6月4日号
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