人が全然足りない…人口激減ニッポンの「人手不足」が引き起こす「深刻な影響」
人口減少経済はどこへ向かうか
データを分析していくと、足元の労働市場では人手不足の深刻化や賃金上昇の動きが広がっていることがわかる。さらに、それは2010年代半ば頃から顕在化していることがわかる。 これには日本銀行による大規模金融緩和や政府の財政出動が影響している可能性が高い。しかし、それだけではないだろう。現在の経済の変化について、一時的な政策効果と構造的な変化とを峻別することは難しいが、その根本には人口減少や高齢化といった人口動態の変化があるはずだ。 これまでのデフレーションの時代において、企業が最も警戒してきたのは需要不足の深刻化であった。つまり、人口減少によって国内市場が縮小すれば、将来、企業間で顧客を奪い合うことになるのではないかという懸念が企業の間にあった。しかし、いざふたを開けてみると、多くの地域や業種で需要不足が深刻化する展開にはならなかった。 そうではなく、近年判明してきたのは、人口減少と少子高齢化が引き起こす経済現象の正体は、むしろ医療・介護などを中心にサービス需要が豊富にあるにもかかわらず、それを提供する人手が足りなくなるという供給面の制約だったのである。 現状経済に起きている変化は、景気変動に伴う一過性の現象だけではなく、構造的なものである可能性が高い。そう考えれば、今後もその時々の景気循環による影響を受けながらも、日本経済の供給能力が十分に高まっていくまでのしばらくの間、現在の経済のトレンドは続いていくとみられる。 今後、少子高齢化が進む中で人手不足がさらに深刻化すれば、企業による人材獲得競争はますます活発化する。そうなれば、将来の日本経済においては、多くの人が予想する以上に、賃金が力強くかつ自律的に上昇していく局面を経験するはずだ。その後は、労働市場における激しい競争にさらされる形で企業は利益を縮小させることになり、経営の厳しい企業は市場からの退出を余儀なくされるだろう。 将来の日本経済を展望すると、人口減少に伴う日本の経済規模の低迷や国際的なプレゼンスの低下は、ほぼ確実にやってくる未来だと考えられる。しかし、生産性が低い企業が市場から退出し、人件費高騰に危機感を持った企業が生き残りをかけて経営改革に取り組めば、先進技術を活用した機械化や自動化の進展も相まって、労働生産性はむしろ上昇していく展開になることもありうる。実質賃金に関しても、名目賃金の上昇率が物価の上昇率を上回っていく形で、緩やかに上昇に向かう可能性が高い。 近代において、日本は主要先進国で初めて大規模な人口減少を経験する国になる。人口減少が進む国の経済はどのような道をたどるのだろうか。これから世界の多くの先進国が経験することになる人口減少経済──。その嚆矢となる日本経済の現状を分析することで、人口減少経済の行きつく先を予想してみたい。 つづく「これから日本の地方で何が起こるのか…「人手不足」の先端を走る地方都市が直面する「現実」」では、いち早く人口減少が進んでいる地方部について「人口動態の推移」から分析していく。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)