能登地震に広がる〝共感疲労〟 応援消費が和らげる 「心が楽になった」
広がる「#応援消費」
「#応援消費」。能登半島地震後、SNSのX(旧ツイッター)上でそんな投稿が目立つ。 「石川県産米を買いました」。記者は2月上旬、Xでそう発信した千葉市の50代男性に話を聞くことができた。地震発生後、テレビやSNSで被災地の映像を見続けるうちに「日常生活でも気分が落ち込むようになった」という。 そうした中、石川県産米を取り寄せて食べたことで「心が軽くなった。少しは復興に貢献できたかな」と男性は話す。
高齢者と農家は注意
碓井教授は「共感疲労」に特に注意してほしい人に「高齢者」と「農家」を挙げる。 高齢者は、人生経験が豊富な分、無意識に自分の過去のつらい経験と被災地を重ねてしまいやすい。 農家は、農地や農道が傷つき、営農再開が危ぶまれている能登半島の状況に対し、「長年守ってきた農地の痛ましい姿を見るのは、さぞ苦しいだろう」「同じ状況に置かれたら自分はどうなってしまうだろう」と自身の立場と重ね、共感疲労になる恐れがある。 住宅の倒壊によって、地域外への避難などを余儀なくされ、それまでの暮らしが一変した農家も少なくない。そうした状況に心を痛めた別の地域の農家が、共感疲労になる可能性もある。 共感疲労になると①不眠②食欲不振③理由もなく涙が出る――などの症状が出る。碓井教授はテレビやSNSと距離を置くことに加え、「何もできない」と自分を責めず、できることを探して行動することを推奨する。 その一例に「応援消費」を挙げる。「離れていても被災地に貢献でき、自分もおいしい食事などを楽める。ポジティブな支援方法」と位置付ける。 能登半島地震に伴う応援消費の機運を高めようと、石川県は「応援消費おねがいプロジェクト」と題して複数のロゴマークを作成。ホームページで無料公開している。県産品を扱う全国の飲食店などに活用してもらい、店頭で応援消費を意識するきっかけにするのが狙い。取材で訪れた全農の「みのる食堂」の三越銀座店でも活用されていた。 記者は相談を寄せてくれた宮城県の女性に、一連の取材内容を伝えた。 女性は「共感疲労なんてことがあるんだ」と驚きながら、「被災地に心を寄せることは大事。でも自分の心もしっかり守らないとね」と実感していた。「私も応援消費で前向きな支援をしていきたい」。(高内杏奈)
日本農業新聞