もやしと株価の意外な関係 もやしの消費額で読み解く日本の景気
「もやしは語る」。読んで字のごとく、もやしは日本経済について、とても示唆に富んだメッセージを発してくれることが分かりました。結論を先取りしたいところですが、まずはなぜ、筆者がもやしに注目したのか、そこから話を進めたいと思います。(解説:第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一)
消費者の節約志向が把握できる、もやしの購入額
昨年の秋以降、経済の話題と言えば、もっぱらトランプ大統領でしたが、日本国内では野菜価格の高騰が国内総生産(GDP)の約6割を占める消費に無視できない影響を与えるという出来事がありました。 消費者物価指数(CPI、東京都区部)で生鮮野菜の上昇率を確認すると、最も深刻だった11月は前年比で40%近い上昇となっており、2004年以来およそ12年ぶりの上昇率でした。野菜というのは、家電などと違って購入頻度が高く、またスーパーなどに入れば必ずと言っていいほど目にするものなので、人々が肌で感じる物価を実体以上に引き上げるという特徴があり、それは人々の生活防衛意識を高めることにつながります。
そこで筆者は、消費者の節約志向がどれだけ強まっているのかを把握するための手段として、もやしの消費額に注目しました。天候不順の影響を受けないもやしは、いつでも基本的に30円程度で販売されていますから、価格が高騰した白菜などの代わりとして、その消費量が増えると考えたのです。 総務省の家計調査でもやしの消費額を調べてみたところ、生鮮野菜の価格上昇が最も酷かった11月にもやしの消費額は飛躍的に伸びていることが分かりました。これは野菜価格の高騰を受けて、消費者が価格の安定しているもやしを選好した可能性が極めて濃厚です。この秋冬はもやしを使った節約レシピが流行したとも聞きます。なお、もやし消費額の伸び率は1985年以降で3番目の上昇率でした。
もやしの消費額でわかる日本の景気と株価との関係性
次に、過去もやしの消費額が大きく伸びた局面を振り返ってみます。1998年と2004年にも大幅な上昇を経験していますが、当時も天候不順の影響で生鮮野菜が高騰したため、もやしがほかの野菜に代わって消費されたと推測されます(図中の1、2)。このデータは、今回と同様、生鮮野菜が高いときにもやしが売れるという仮説の正当性を担保しています。 また、上述1、2のような突発的な伸びのほかにも、基調的にもやしの消費額が増えている局面があります。たとえば、1997ー98年にかけての局面A、そして2008‐09年にかけての局面Bがそれにあたります。局面Aは海外でアジア通貨危機、国内で金融機関の破たんが相次ぐなど経済面では非常に暗い時代で、局面Bはリーマンショック前後の景況感悪化が著しかった時代にあたります。このことからもわかるとおり、もやしの消費額は人々の気持ちを代弁しているというわけです。端的にいえば、景気が悪いときに、もやしブームが起こり、反対に景気が良いときには自然ともやしに手が伸びなくなっているということです。