マセラティの“激変”は高級車ユーザーに受け入れられるのか? 電動化を推し進めるイタリアンブランドの未来を考える
マセラティの電動化はイタリアン ラグジュアリー ブランドを大きく変える! 特別なイベントに参加した大谷達也がリポートする。 【写真を見る】新時代のマセラティ車たち(90枚)艶やかなインテリアは不変か!?
新しい世界観を生み出す
電動化に向けて急速に舵を切るマセラティが、2024年4月に「フォルゴレ デイ」と題するイベントをイタリアのリミニで開催した。 イタリア語で「雷鳴」や「稲妻」を意味するフォルゴレは、マセラティのバッテリー式電気自動車(BEV)に与えられる一種のグレード名で、すでに「グラントゥーリズモ フォルゴレ」と「グレカーレ フォルゴレ」の2台が本国イタリアなどで発売されている。 本イベントの目玉となったのは、マセラティにとって3台目のBEVとなる「グランカブリオ フォルゴレ」のワールドプレミア。基本構成は発売済みのグラントゥーリズモ フォルゴレと共通ながら、ヨーロッパの有名ブランドが送り出すBEVのオープンスポーツカーというのは、おそらくこれが世界初ではなかろうか。エンジン音も排ガスも排出することのないクルマでのオープンエアモータリングがどんな喜びをもたらしてくれるのか、是非とも味わってみたいものである。 グランカブリオ フォルゴレの披露とともに発表されたのが、ダミアーノ デイヴィッドを起用して制作されたプロモーション映像だった。イタリアのロックバンドとして世界的にその名を知られるマネスキンのリードボーカルであるダミアーノ デイヴィッドが出演するこのムービーは、彼が過ごす日常のなかにグラントゥーリズモ フォルゴレ、グランカブリオ フォルゴレ、グレカーレ フォルゴレの3台が登場。デイヴィッドの妖艶な雰囲気が、マセラティならではのイタリアン ラグジュアリーと共鳴しあって新しい世界観を生み出しているように思えるので、興味のある向きは視聴いただきたい。
マセラティの電動化に対する姿勢
そうした華やかなイベントはいずれも陽が沈んでからおこなわれたが、日中には内容の濃いプレスコンファレンスとワークショップが開催され、マセラティの電動化に対する姿勢などが示された。 冒頭、挨拶に立ったマセラティCEOのダヴィデ グラッソは「110年におよぶマセラティの歴史はデザイン、パフォーマンス、ラグジュアリー、イノベーション(革新)の4つに立脚している」と、説明。そのうえで「こうしたブランドの価値を次の段階に押し上げるために必要なのが電動化であり、フォルゴレ・モデルである」と、定義づけた。 たとえばマセラティ初のBEVであるグラントゥーリズモ フォルゴレは最高出力761psと最大トルク830Nmを発揮。0~100㎞/hを2.7秒で駆け抜け、最高速度は325km/hに到達する。エンジン車のグランツーリズモはトップパフォーマーのトロフェオでさえ0~100㎞/h加速は3.5秒、最高速度は320km/hなので、たしかにフォルゴレのほうが動力性能的には上。つまり、BEV化はマセラティのパフォーマンス向上に役立っているのだ。 こうしたパフォーマンスの裏付けとなっているテクノロジーについて説明してくれたのが、マセラティのエンジニアリング部門を率いるダヴィデ ダネジンだった。 ダネジンはまず、グラントゥーリズモ フォルゴレとグレカーレ フォルゴレに用いられている電動プラットフォームの違いについて解説。グラントゥーリズモはバッテリーをセンタートンネル内やリアシートの下側に搭載しているのに対して、グレカーレでは一般的なBEVとおなじようにフロア全体に薄く広くレイアウトしていることを明らかにした。そしてグラントゥーリズモは800Vの高圧電気系を用いて充電速度の短縮化を図っているのに対し、グレカーレはより一般的な400V系を採用。充電時間とコストの最適化を図っていることをうかがわせた。 また、グラントゥーリズモはフロント1基、リア2基の3モーター方式により、ステアリングを切らなくても駆動力によってクルマみずからが曲がろうとするトルクベクタリングを実現。いっぽうのグレカーレは、前後に各1基の2モーター方式によって4輪を駆動する4WDにより、SUVに必要なスタビリティ(安定性)をもたらしたという。 続いて登壇したチーフデザイナーのクラウス ブッセは、クルマのデザインを彫刻にたとえながら「プロポーションこそが彫刻の基本」と、言明し、プロポーションの重要性を訴えた。ちなみに、ブッセが現行マセラティのプロポーションを描くうえで常に手本としているのが1954年に作られた「A6GCS」と、呼ぶモデル。これは、フォーミュラカーのような葉巻型をしたレーシングカーのボディに、前後のタイヤをカバーするフェンダーを追加したようなプロポーションで、レーシングカーに象徴されるパフォーマンスと長距離ドライブの快適性を融合した融合させたマエラティのコンセプトにぴったりマッチしているというのがブッセの主張。やや低い部分に設けられた楕円形のフロントグリルと、その左右に見えるヘッドライトからフロントフェンダーまでの造形がやや独立して見えるマセラティの現行デザインは、こうして誕生したのである。 マセラティは2025年末までに「MC20」、次期型「クワトロポルテ」、次期型「レヴァンテ」のフォルゴレ版をリリース。そして当初の予定を2年早め、2028年中に“完全に電動化されたイタリアンラグジュアリーブランド”へ、移行することを目標としている。
文・大谷達也 編集・稲垣邦康(GQ)