脚本家・宮藤官九郎「かっこつけるほど、かっこ悪い。のちにそう気づかせてくれた30代。そして、迷うくらいなら、やらないと思えるようになった40代以降」
脚本家・宮藤官九郎さんインタビュー
大ヒットドラマを次々と生み出し始めたのは、29歳のときから。そのころは、「見えない何かにビビっていた」と言い、そんな自分を、「かっこ悪かった」と振り返る脚本家の宮藤官九郎さん。自分を俯瞰し評価できるようになったのは、あとになってからだといいます。最新舞台への意気込みとともに、今に至る過程を語ります。 【写真10枚】「先生扱いされて、人から意見を言ってもらえなくなったら終わりだから」若手に気を使わせないように日々考えています ◆評価を気にするのは、自分が迷っているということ 「中高生のころから、みんなが真面目に何かやっているときや、笑ってはいけない空気のときほど、おかしくなるというクセがありました。それは今も変わっていなくて、お芝居を見ていても、みんなと違うところで笑いたくなってしまう。 そういうところに、まだ人が気づいていない、次の面白いもののヒントがある気がするから。度が過ぎると、バカにしていると思われちゃうから、気をつけなきゃいけないんですけど(笑)。 あ、もうひとつ変わってないのは、体型。たばこをやめても、忙しくても、太ることもこれ以上やせることもなく、ずーっとこのまんまです」 自分だけの着眼点を武器に、子供のころから文才を発揮し、作文コンクール受賞者の常連だった宮藤さんだが、脚本家として仕事を始めたのは、29歳のとき。『池袋ウエストゲートパーク』(2000年/TBS系)の大ヒットを機に、30代での代表作『木更津キャッツアイ』『タイガー&ドラゴン』などへつながっていく。 「急にいろんな人から評価されて、自分じゃないもうひとりの自分に監視されているような、おかしな感覚がありました。それまでは演劇の舞台で、目の前にいるお客さんに向けて作品をつくってきたけれど、それがドラマや映画に広がって、見えない何かにビビって。世間にどう思われるだろう。面白くないと言われたらどうしよう…と。 やがて、代表作品が生まれて、それに対して質問されれば、理論武装もするようになる。いいこと言おうとしたり、飽きられないように構えたり。 思えば、『かっこ悪くないように』ばかり考えていたんです。今なら、人の評価を気にするということは、自分が迷っているということだとわかります。だから、迷うくらいなら、やらない。40代以降は、そうなっていきました」 ◆まだ知らないことや新しいことを欲している 「かっこつけるほど、かっこ悪い。のちにそう気づかせてくれた30代。そして、今活動を一緒にしている仲間は、そのころからのつきあいです。未熟なお互いを許容したりガマンし合ったりしながら、関係が築かれていきました。それもこれも、今になってわかるわけで、30代真っ只中は、悩んだところで答えは出ないもの。 目の前のことに必死で、何かを追いかけ続けて。先輩たちのアドバイス――だんだん体の無理がきかなくなるよ、とか――だって、真剣に聞いてなかったけど、今なら確かにそうだなって。情報が多いほど、世の中が便利になるほど、すぐに答えが出ると思いがちだけど、そんなことは全然ないんですよね」 脚本家として活躍する前から、宮藤さんが続けているのが、「大人計画」での活動だ。大学在学中に演出助手を始め、やがて公演作品の作・演出を務めるように。 その中で、大きな舞台での公演と別に、自由なテーマで行う「ウーマンリブ」シリーズは、1996年から現在も続いているライフワークのひとつ。宮藤さんが企画・脚本・演出を手がけ、役者のひとりとしても舞台に出続けている。 「映画やドラマの脚本づくりを長距離走とするなら、コントは短距離走で違う筋肉や頭を使うもの。だから、どちらもバランスよく続けたいと思ってきました。 それにコントは、とにかく本番が楽しくて仕方ない。稽古がどんなにキツくても、途中でうまくいかないことがあっても、目の前のお客さんに笑ってもらったとき、すべてが報われた感覚になれるんです」 そして、やはり目を引くのは、シリーズ名にある「ウーマンリブ」という言葉。もとは、女性解放という意味をもつ言葉だが――。 「30年前に始めるとき、何かユニット名をつけないと長く続かないだろうと思って、仲間と考えた候補の中のひとつでした。決め手になったのは、『宮藤さんからいちばん遠い言葉』だからという理由で『ウーマンリブ』。そう、あのころは確かに深く意味を考えてはいなかったな。 『ウーマンリブ』公演も30年近くたって、振り返れば女性が中心の公演が増えたり、公演タイトルに女性の名前がついたり、何も考えずにつけた割には、そっちに引っ張られているような、いやその間に世の中が1周半くらい回って、多様性というものが無意識に定着したような。 かといって、それをテーマのど真ん中にもってこようと思ってはいません。ドラマ『不適切にもほどがある!』(2024年/TBS系)は、たまたま、みんなのモヤモヤを言葉にしたのでウケたけれど、同じ方法はもう使えませんし。 それより、スタッフの中でいちばん年上になってきて、若手に気を使わせないためにどうしたらいいか、日々考えているかな。先生扱いされて、人から意見を言ってもらえなくなったら終わりだから、自分から『ここ、ダメじゃない?』『ここ、直しましょうか』と提案するようにしています。 するとスタッフも意見を出しやすくなる。『私もそう思ってたんですけど…』と。ちょっと面倒くさいけど、今後は若い人たちと組んで仕事しないと、自分の感覚も変わらないですから」 「ウーマンリブ」に話を戻すと、現在準備中の公演がどうなるのか、気になるところ。 「新しいとか古いとか、面白いとかそうじゃないとか、そういう物差しではなくて、コントを見て“機嫌がよくなる”ことが、大事。そうすれば、みんな免疫力がアップして、また翌日から頑張れる。だから、タイトルは『免疫力がアップするコント』です」 今回のテーマは、「最近ちょっと働きすぎなので、たまには楽をさせていただこうと思って考えた」と冗談交じりに話す宮藤さんだが、それと同時にこんな思いもある。 「コントは頭の中にあっても、台本はこれから。集中力も体力も落ちてきて、パソコンに向かってても、ついYouTube見ちゃうし、ネットニュースを見て時間がたってる。 ということは、疲れたとか言いながら、まだ新しいことを欲してるということ。いつになっても、落ち着きがないまま、『もっと面白いことがあるんじゃないか』って言いながら死んでいくのも、悪くないと思っています」