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---------- 日本人には、日本人のための病気予防法がある！　 同じ人間でも外見や言語が違うように、人種によって「体質」も異なります。そして、体質が違えば、病気のなりやすさや発症のしかたも変わることがわかってきています。欧米人と同じ健康法を取り入れても意味がなく、むしろ逆効果ということさえあるのです。見落とされがちだった「体の人種差」の視点から、日本人が病気にならないための方法を徹底解説！　 【写真】じつはいま「日本人」のあいだで発生率が急上昇している「がんの種類」 *本記事は『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」 科学的事実が教える正しいがん・生活習慣病予防』(講談社ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。 ----------

動脈硬化は誰にでも起きる

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　脳出血の発症率は下がりましたが、それに代わって脳梗塞が増えています。脳出血も脳梗塞も脳血管障害に分類され、厚生労働省の「人口動態統計の概況」によると、平成26年の日本人の死因で4番目に多かったのが脳血管障害でした。脳出血は脳の血管が破れて出血する病気で、第4章で見たように、おもに高血圧が原因です。これに対して脳梗塞は、脳の血管が詰まったり、ふさがったりして脳に血液が十分流れなくなることで起こります。こちらは背景に動脈硬化があります。 　治療技術が進んだ現在でも、脳血管障害で年間10万人以上が亡くなっており、命を取りとめても重い障害が残る例があとをたちません。日本には介護が必要な人が約600万人いて、その約4分の1が脳血管障害の後遺症によるというデータがあります。健やかに天寿をまっとうする鍵は、脳梗塞はもとより脳出血の原因にもなる動脈硬化をいかに予防するかです。 　動脈硬化は、その名のとおり動脈にだけ起こります。血管には、心臓から全身の組織に血液を運ぶ動脈と、全身の組織から心臓に血液を戻す静脈があって、すべてつなぎあわせると10万km、なんと地球2回り以上にもなります。 　では、ここで問題です。心臓から送り出された血液が足の爪先まで行って、再び心臓に戻ってくるのに、どれくらい時間がかかると思いますか？　 　答えはたったの20～30秒です。猛烈なスピードで流れる血液は大雨で起きた土石流のようなもの。動脈はとくに流れが速くて勢いがあるので、壁の内側に無数の小さなキズができ、そこから動脈硬化が始まります。これに対して静脈はその名のとおり血液が静かに流れるので、血管の壁にキズがつくことがありません。 　健康な動脈は、血液が流れる勢いに耐えられるよう、ゴムでできたチューブのようにしなやかで弾力に富んでいます。しかし、年齢を重ねると弾力を失い、壁が厚くなって、ときには壁の一部が骨のように硬くなる石灰化という現象が起こります。こう聞くと心配になってしまいますが、近代医学のいしずえを築いたウィリアム・オスラー博士が「人は血管とともに老いる」と述べたように、これはあくまでも自然な老化現象で、病気ではありません。 　この変化は中高年になってから始まるわけではなく、なんと生まれたばかりの赤ちゃんの動脈ですでに始まっています。進行のしかたは個人差が大きいのが特徴で、見た目の老化が人それぞれなのと同じく、若くても動脈が硬い人もいれば、60代、70代でもそれほど進行していない人もいます。 　この自然な老化とは別に、不健康な動脈硬化が存在します。よく、コレステロールの数値が高いと動脈硬化になると言いますが、それが不健康な動脈硬化の代表、粥状硬化です。血液にまじって流れるコレステロールなどの脂肪が、長い年月をかけて動脈の壁にしみこむことで、壁が次第に厚くなり、動脈の内側の血液が流れる部分に、こぶのようにつきだしてきます。やがて、その表面に血の固まりがくっついたり、壁の表面がただれたりすると、血液の流れが悪くなって、ついには詰まってしまいます。 　粥状の「粥」とは、読んで字のごとく「おかゆ」のこと。おかゆのように、どろどろした物質が、動脈の壁の内側にべったりくっつくことから命名されました。粥状硬化が進行して動脈が詰まると、その先の組織に酸素や栄養を十分送ることができず、最悪の場合は組織が死んでしまいます。粥状硬化は、心臓から出たばかりの太い動脈や、脳に血液を送る頸動脈、心臓に酸素と栄養を送る冠動脈などの重要な働きをする血管に起こりやすく、脳梗塞や心筋梗塞を招きます。 　この脳梗塞と心筋梗塞の「梗」という字、「硬」とは違いますよ。「梗」は、硬い芯のある枝を意味する漢字で、たとえば果梗と言えば、果物が枝につく柄の部分のことです。サクランボから長く突きでた部分を思い浮かべてください。細いけれど強くて、なかなかちぎれません。あれが果梗です。 　心筋梗塞、脳梗塞で梗の字を使うのは、硬化を起こし、石灰化によって硬くなった動脈を、硬い枝に見立てたからと思われます。古代の人も、心筋梗塞で亡くなった人を解剖して、心臓の表面にある冠動脈が固くなっているのに気づいたのでしょう。そして血管が「塞がる」ことから、この状態を梗塞と呼びました。顕微鏡がなかった時代の正確な観察力に驚かされます。 　粥状硬化は、遺伝的素因を背景に、いくつもの環境要因が重なることで発症すると考えられていて、そのうちとくに大きな環境要因が、肥満、高血糖、高血圧、そして脂質異常症です。脂質異常症とは、悪玉コレステロール(LDL)または中性脂肪が多すぎるか、善玉コレステロール(HDL)が少なすぎる状態のことで、以前は「高脂血症」と呼んでいました。しかし、善玉HDLが少ない状態を指すのに、高という字がそぐわないことから、最近は「脂質異常症」という名称を使っています。ただし、悪玉LDLまたは中性脂肪が多い状態については、引き続き高脂血症と言っても構わないことになっています。 　それはともかく、肥満に加えて、高血糖、高血圧、脂質異常症という顔ぶれ、見おぼえがありませんか。そう、メタボリックシンドロームです。その診断基準はこうなっています。 　「内臓脂肪の蓄積に加えて、血糖、血圧、脂質のうち二つ以上が基準を超える状態」 　このメタボリックシンドロームが危険なのは、動脈硬化が急速に進み、脳血管障害や、心筋梗塞、狭心症などの心臓病の危険が大きく高まるからです。 　図5-1に示すように、肥満、高血糖、高血圧、脂質異常症のうち、3つないし4つそろうと、一つもあてはまらない人とくらべて心臓病の発症率が、なんと31倍(！　)も高くなります。生活習慣病を従えた悪の総大将、それが動脈硬化です。 　さらに連載記事＜「胃がん」や「大腸がん」を追い抜き、いま「日本人」のあいだで発生率が急上昇している「がんの種類」＞では、日本人とがんの関係について、詳しく解説しています。