清水亮「AIの世界で日本は戦えていますか?」と問われて。最大のチャンスを逸した我々は「竹槍で世界に挑んだ」歴史を笑うことなどできるだろうか
人工知能はウソをつく【第9回】
急速に進化を続ける人工知能。日本政府も戦略会議を立ち上げ、その活用や対策について議論を始めた。一方、プログラマーで起業家、そして人工知能の開発を専門とする清水亮氏は「信頼に値するAIを生み出せるかどうかで私たちの未来は変わる」と喝破する。その清水さんによる人工知能についての連載、今回のテーマは「世界で戦えているか」です。
日本は戦えていますか?
火曜日と金曜日のルーティンは、行きつけの飲み屋に行くこと。 常連客と新規の客が入り乱れ、バカな話、面倒な話、恋の話やたまに文学、科学の話なんかで盛り上がる。毎日のように筋書きのないドラマが目の前で繰り返される。世界中の酒場という酒場を見てきたけれども、世界のどこにもこんな場所はありはしない。 この店、いや街にはいろんな人がやってくる。 プロの雀士、役者の卵、作家、フリーライター、編集者、漫画家、ウーバーイーツの配達員、公務員、予備校の先生、ダンサーなどなど。 普段は仕事の話は滅多にしないが、会話の幅が広いのがこの街の良さだ。 ある日もそこへ行くと、見知った顔を見かけた。彼は本郷の大学院を出て、公務員をしている。この街でもあまり見かけないインテリだ。 乾杯のあと、まだ酔いが回っていない彼は「話のネタに」とばかりに自分へ話題を振ってきた。 「最近、AIの世界はどうですか。日本は戦えてますか」 「何言ってんのさ。全然ダメだよ」 思わず本音が出る。
オープンソース陣営とクローズドソース陣営
いま、世界のAIをリードしているのは中国だ。この10年くらいは中国政府がAI研究者の育成に力を入れていて、世界中の学会を席巻している。 国際学会でも、ネットでも、目立つ論文はたいがい中国人が書いている。Microsoftの名前で出ていようとGoogleの名前で出ていようと、必ず中国人の名前が入っている。それくらい中国はAIの世界でリードしている。 特にここ二ヶ月くらいはテンセントとアリババとバイトダンス(TikTok)がつるべうちのごとく、毎日のようにとんでもないブレークスルー論文を発表している。しかもオープンソースで。 AIの世界は大きく分けてオープンソース陣営と、クローズドソース陣営に分かれている。 オープンソースの雄は中国で、ついでヨーロッパにはStableDiffusionを産んだ大英帝国と、ChatGPTに対抗しうるオープンソースとして開発されたMistralを擁するフランスがある。 クローズドソース陣営の雄は、当然ながらアメリカ合衆国だ。ChatGPTを世に出した「OpenAI(オープンエーアイ)」もその中に存在する。 しかしその会社名に反して、彼らはここのところ一切のオープンソースをやめてしまい、クラウドで利用料を取ることにご執心だ。もちろんOpenAIの後ろ盾・・・というよりももはや実質的支配者はMicrosoftだ。これとほぼ全く同じ方針をとるのがGoogleである。 Adobeも、新技術を次々と発明。論文発表もしているがソースは一切出さない。AI用半導体の世界的指導者たるNVIDIAも、ソースは公開するが商用利用不可、という不可解な制限をつけている。 その中間にあるのがFacebookあらためMeta社。ここはソースコードを公開し、商用利用可能としているものの、「Facebookの脅威になるような目的には使ってはいけない」という制限を設けていたりする。
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