1審有罪は“砂上の楼閣”か 2審で異例の調べ直し…「逆転無罪」の可能性も “保険金殺人”か“悲劇の夫”か 白浜“水難偽装”殺人事件の真相
妻を失った悲劇の夫が、一転して保険金目当ての殺人の罪に問われる…世間の注目を浴びた事件から6年。3月4日に2審の判決が言い渡される。2審では、法医学者3人が、1審で有罪の柱となった「砂」について、新たな証言も行った。「砂」の存在から他殺と認定した1審判決は“砂上の楼閣”だったのか、証人尋問を詳しく振り返る。 ■【動画で事件を追う】悲劇の夫か 保険金殺人か 揺らぐ検察が示した「証拠」 二審は異例の展開に
2017年7月、和歌山県白浜町で夫婦でシュノーケリングをしていた野田志帆さん(当時28歳)が、夫がトイレに行っている間に溺れ、搬送先の病院で2日後に低酸素脳症で死亡。9カ月後、殺人の容疑で逮捕されたのは、夫の野田孝史被告(34)だった。 実は、夫婦の間には事件の1カ月前から離婚話が浮上。原因は野田被告の不倫で、相手の女性は当時妊娠中だった。さらに、志帆さんには複数の生命保険が掛けられていたことや、野田被告が事件前日にインターネットで「溺死に見せかける」などの検索をしていたことから、野田被告に疑惑の目が向けられる。
志帆さんの体や着衣に傷はなく解剖所見で他殺の判断はできなかったが、志帆さんの治療に当たった救命医が、治療中に胃の中から「砂が出てきた」と供述。その量が約37グラムと推定されたことから、この多量の砂を根拠に事故による溺死ではなく、一緒にいた野田被告が「海底付近で押さえつけて溺れさせ殺害した」として逮捕、起訴された。 そして1審・和歌山地裁(武田正裁判長)は、2021年3月、「砂」を柱にした検察側の殺害の立証を認め、野田被告に懲役19年の判決を言い渡した。
弁護側は無罪を主張し、控訴。 2022年12月から大阪高裁で始まった控訴審。1審で有罪の決め手となった証拠の「砂」について調べ直すため、次の3人の法医学者に同時に質問する「対質尋問」が行われた。 検察側証人・香川大学 木下博之教授 弁護側証人・山口大学 藤宮龍也名誉教授 弁護側証人・滋賀医科大学 一杉正仁教授
■胃の中の砂はあったのか?
救命医が治療中に見たという「胃の中から出てきた砂」と供述した砂は、すぐに廃棄され残っておらず、司法解剖では胃の中から食物残渣が出てきたものの砂は胃を含む体のどこからも砂は一粒も発見されなかった。 砂は果たして本当にあったのだろうかー 裁判官「砂があったかどうか自体が問題となっているんですけど、救命医は『(治療で胃の内容物を吸引した際に)引けた』と説明していますが、胃の内容物(食物残渣)を踏まえて、砂以外のものである可能性はありますか」 検察側・木下教授「供述を拝見しただけなんですが、砂だという風に理解しております」 弁護側・藤宮名誉教授「それは証人を信じるしかないと思っています」 弁護側・一杉教授「可能性としては食物残渣の一部かと思っています。仮に砂があったとしても極めて少量だと思います」 裁判官「解剖時に気道や肺から砂が出ていないことを考えると、基本的にそもそも気道内に砂があまり入っていないという理解でいいですか」 検察側・木下教授「そのように思います」 弁護側・藤宮教授「(治療中だった)1日半の間に、砂が入っていたならばおそらく気管内の吸引を何回も行うので、胃に大量の砂があれば、気管からもそれなりの量の砂が吸い込まれるはずで、解剖時もある程度、残っている可能性が高いと思います」 弁護側・一杉教授「入院中も吸引しても砂が引けなかった、解剖時にも一粒もなかったということを考えると砂は吸引していないと考えるのが妥当です。胃に30グラム以上の砂があって気道に入らないというのはそもそも整合性がとれていない」
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