トランプ氏がグリーンランド購入にこれほどの関心を寄せる理由
豊富な希少鉱物
だがそれ以上にトランプ氏にとって魅力的と思われるのは、グリーンランドに眠る豊富な天然資源だ。ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイで地政学を専攻するクラウス・ドッズ教授はそう指摘する。 それらは石油や天然ガスの他、レアアースに分類される非鉄金属を含む。後者は電気自動車や風力タービンの素材として需要が高く、軍装備品の製造にも用いられる。 現状で世界のレアアース生産を支配する中国は、トランプ政権2期目を前にして既に輸出規制などの措置をちらつかせている。トランプ氏と顧問らがその点を非常に懸念していることに疑問の余地はないとドッズ氏は述べ、「グリーンランド取得の真の目的は、中国の締め出しにあるのだろう」と付け加えた。
氷の融解が好機
氷の融解と北極の気温の急激な上昇により、現在グリーンランドは気候危機の最前線に立たされているが、環境の変化を経済的なチャンスと捉える向きもある。 海氷がなくなれば航路が開け、北半球での夏の間に航行可能な期間が延びる。北極評議会によると、昨年までの10年間で北極圏での貨物輸送は37%増加したが、氷の融解はその一因となっている。 「トランプ氏は恐らく本能的に北極の氷が融解しつつあるの理解し」、それを好機と認識しているとドッズ氏は分析。ただ同氏が警告するところによれば、当該の航路の状況は引き続き往々にして不安定なものであり、氷の融解でかえって航行の危険が増す場合さえあるという。 氷の融解で天然資源へのアクセスが容易になるとの見方もあるが、英ダラム大学の地質学教授、フィリップ・スタインバーグ氏によれば、これまでのところ気候危機で現状が一変すると証明されたわけではないという。
獲得は実現可能か?
デンマーク政府とグリーンランド自治政府は、グリーンランドを購入可能と見なす考えに強く反発している。 後者のエゲーデ首相は昨年12月、フェイスブックへの投稿で「グリーンランドは売り物ではなく、今後もそうなることは絶対にない」と断言した。 それでも購入を巡るトランプ氏のコメントはグリーンランドにとって興味深いタイミングで飛び出したとドッズ氏はみている。先住民族イヌイットが主導する自治政府が最近、デンマークからの独立に対する要求を強めているからだ。エゲーデ首相は新年の演説で、「植民地時代の足かせ」を取り除くよう求めた。 ドッズ氏によればこうした動きで「デンマークはパニックに陥り」、グリーンランドとの関係に一段と注力しているように見えるという。昨年12月、同国はグリーンランド向けの軍事支出を大幅に拡大すると発表。今月に入るとデンマーク王室が紋章のデザインを刷新した。新たな紋章には、グリーンランドを象徴するホッキョクグマが従来よりも大きく描かれている。 独立志向の高まるグリーンランドだが、島の経済は依然としてデンマーク政府から支給される年間5億ドル規模の補助金に依存しているのが実情だ。ドッズ氏は「仮にトランプ氏が、年間10億ドルで別の種類の関係を結ぼうと申し出たら、グリーンランドはどうするだろうか?」と問いかける。 現地の政治家の一部が構想として掲げているのは、米国がマーシャル諸島と結んでいるような特別な関係だ。その場合グリーンランドは主権を確保しつつ、米国から財政支援を受ける。それと引き替えに特定の戦略的利益に関して米国との間で合意を結ぶことになる。 しかしグリーンランド自治政府首相を務めたクーピク・クライスト氏は、この種の関係が機能し得るかについて強い疑念を示した。「米国が自分たちの先住民族をどのように扱っているか」を考えれば答えは出るというのが同氏の認識だ。 現時点で、トランプ氏がグリーンランドを獲得するとの自身の願望をどこまで追求するのかは判然としない。「単なる虚勢なのか、別の何かを手にするための脅迫なのか、あるいは実際に本人が望んでいることなのかは誰にも分からない」(プラム・ガド氏)