三谷幸喜監督、映画監督を続けるか否かの分かれ道を振り返る
脚本家として第41回向田邦子賞を受賞した大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(2022)をはじめ、数々の名作を世に送り出してきた三谷幸喜。一方で映画監督としても最新作『スオミの話をしよう』(9月13日公開)で長編作品9本目というキャリアを築き上げた。過去の作品でも自身の脚本を監督する際のさまざまな思いを述べてきた三谷監督だが、第1作となる『ラヂオの時間』(1997)から27年という歳月を経たいま、改めて脚本家・三谷幸喜から見た、映画監督・三谷幸喜について語った。 長澤まさみ、西島秀俊、松坂桃李ら場面写真<20枚>
自分で演出するかどうかの決め手は「笑い」
三谷と言えば脚本家、演出家、映画監督とさまざまな顔を持ち、作品へのかかわり方も役割によって変わる。脚本家としてかかわった大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では「脚本家は、物語の最初の部分を作る人間なので、どこかキャラクターの正解を持っていると思われている。そんな人間が現場に行くと、全能の神みたいな扱いになりがちなんです。物語は現場でスタッフ、キャストが試行錯誤しながら作ることで面白いものができると思うので、やっぱり行くべきではないと思っているんです」と持論を展開していた。
一方で、本作のように自身の脚本を自ら監督する場合もある。その違いについて三谷監督は「僕が演出までやろうと思うのは、主に笑いに関してなんです。笑いとは本当に人それぞれなので、僕が面白いと思って書いたセリフを演出家が面白いと思わなければ、俳優さんにも面白さを伝えることができない。そうすると僕は出来上がった作品にフラストレーションがたまるわけで。本当に自分が面白いと思って笑わせたいセリフやシーンがあるときは、自分で演出して、一方で人が演出するときはあまり笑いにはこだわらないようにしています」と語る。
もう一つ、監督作で脚本を執筆する際には、ある程度の余白を持たせるという。「どう頑張っても頭の中で書いたシナリオより、現場で俳優さんたちと一緒に作っていったセリフの方が生き生きとしている。あと現場に入ってみないと分からない部分もあります。セットを見て、そのシチュエーションに合うように台本を変えることもあります。役を俳優さんに当て書きするみたいに、セットや衣装に当て書きすることもあります。そこは臨機応変にやっていきます」