演歌歌手・岩本公水 今歌えていること、声を大にして「幸せ」 2005年に声が出なくなる経験「当たり前ではない…幸せで恵まれた時間」
「お客さまの前で、こんな声で歌っているのが恥ずかしいと恐縮していると、もうステージに立つこともつらいんです。もう歌えないっていう思いが強くなって、精神的にもまいっちゃったんですよね。引き止められもしましたが、もう戻る気はしなかったんですよ」
しかし不思議なことに実家に帰ると、自然と声の調子は戻っていった。
「冗談みたいな話ですが、もう働かなくていいんだと思ったら、なんか声が出るんですよ」。ただ「次の仕事は何をしようかとワクワクしながらも、父親がネックだったんですよ」とも明かす。
幼いころから、歌手を目指してきたのは、父のたっての願いでもあった。それだけに、歌手をあきらめて帰ってきた娘に、父は「悔しくないのか」と言葉を投げかけたという。
「ほんと、男親ってデリカシーがないですよね(笑)。今、思うと、あの父の憎たらしい言葉がなければ、またこうして歌の世界には戻ってきていなかったかもしれないので、ありがたかったのかな」
そんな父は今も元気に秋田で米農家を営んでいる。彼女にとって一番のファンは父かもしれない。
「復帰するときは泣いて喜んでくれました。それぐらい父も悔しかったんでしょうね。だから今、誰よりも喜んで私の追っかけをしてくれていますよ。本当、誰よりも先に会場に来ていますよ。ありがたいですね」
これからの歌手人生、どのように歩んでいくのだろうか。
「いい歌を歌っていきますよ。ぜひ皆さんに生の歌を聴いていただいて、やっぱり岩本公水の歌は良かったなと思っていただけるような、そんな歌を残していきたいと思います。あとここ数年、小唄を習っているんです。音程や節回しも演歌とは全然違うんですが、こんな面白い文化が日本にはあったのかって刺激を受けています。だから、私もしっかり勉強して、歌いつないでいきたいですね」
いつでもポジティブ。彼女の歌には、そんな思いが込められている。
■岩本公水(いわもと・くみ) 演歌歌手。1975年6月4日生まれ、49歳。秋田県出身。高校卒業後、歌手を目指して上京。有線放送で電話受付のOL時代にスカウトされ、95年5月、「雪花火」(キング)でデビューした。97年にはNHK新人歌謡コンテストでグランプリを受賞し第48回NHK紅白歌合戦に初出場を果たす。2005年から2年間、休業している際、介護ヘルパー2級、障害者ヘルパー2級などの資格を取得した。趣味の陶芸は埼玉県東秩父村に工房を構え、個展を開催するほどの腕前。