「戦争ができる国」に変わりつつある日本で、新聞記者にできることはあるのか
日本(人)とは何か、あの戦争は何だったのか――『五色の虹』『牙』『太陽の子』といった上質なノンフィクション作品を通じて大きな問いと格闘してきた朝日新聞記者でルポライターの三浦英之氏。最新作の『涙にも国籍はあるのでしょうか』では、誰も書かなかった、把握してこなかった東日本大震災での外国人犠牲者の実態に迫った。 【写真】日本兵1万人が行方不明、「硫黄島の驚きの光景…」 なぜ日本兵1万人が消えたままなのか、硫黄島で何が起きていたのか――民間人の上陸が原則禁止された硫黄島に4度上陸し、日米の機密文書も徹底調査したノンフィクション『硫黄島上陸』でデビューを果たした北海道新聞記者の酒井聡平氏。同書は現在12刷とロングセラーとなっている。 ふたりの新聞記者・ノンフィクションの書き手が、この時代にどう戦争を伝えるか、新聞記者に何ができるのか、新聞記者のノンフィクションはなぜ読まれないのか……縦横に語る。 (撮影:三浦咲恵)
『散るぞ悲しき』に続く『硫黄島上陸』は類書なき本
三浦酒井さんが書いた『硫黄島上陸』は刊行後、早い時期に読みました。正直、「やられたな」という印象と、「ついに出たか」という複雑な感想を抱きました。 僕が長らく追求し続けているテーマは「日本とは何か、日本人とは何か」です。そこには当然、「あの戦争は何だったのか」も含まれていて、日本の近現代史についても、精力的に取材を続けています。 実を言うと、僕もずっと酒井さんが取材した硫黄島が気になっていたんです。でも、取材に踏み切れなかった。大きな理由は、梯久美子さんの『散るぞ悲しき』という本が2006年に出版されたことでした。その作品の衝撃があまりに大きかった。栗林中将を中心とした人間の物語であり、時代背景も精密に描かれていて、硫黄島の戦いが何を意味していたのか、読者の中にスッと入ってくる。文章はうまいし、史実も素晴らしい。新しいファクトも含まれていた。それで「ああ、硫黄島はもう無理だな」と思ってしまったんです。これを超える作品は20年、30年は出てこないだろう、と。 しかし『硫黄島上陸』を読んで「なるほどなあ」と思いました。梯さんの場合、栗林中将の人間性に焦点を当て、優れた記録作家としての能力と史料を用いて素晴らしいノンフィクションを構築しています。一方、酒井さんの本はルポルタージュを主軸にし、硫黄島という難しいテーマにしっかりと一人称で取り組んでいて、類書がない本を書かれたなと思いました。正直言って、僕にはできなかったと思います。