行ってわかった「イトーヨーカドー」戦略エリアでも閉店の理由、今後は大阪・兵庫・愛知の店舗が焦点
4月のある土曜日、実際に記者も足を運んでみた。1階、2階ともに「ガラガラ」とまではいかないものの、客数は数えられる程度であり、休日に地元密着型のスーパーを訪れたときの活気は感じられなかった。1ブロック隣の商店街は歩きづらいほどの観光客で賑わっていたにもかかわらず、店内に観光客とおぼしき人が見つからなかったのも印象的だった。 川越市に住む50代パートの女性は「川越市は割と車社会。休日に車で利用しようにも提携駐車場からは徒歩5分も離れていて不便だった」と話す。
川越店の半径1キロ前後には競合のベルクやヤオコーが店舗を構える。どちらも価格や品質面で定評のある有力スーパーだ。イトーヨーカドーに比べ、駅からは遠いものの、大型駐車場併設で広域からの集客を可能にしている。川越店の敗因は商品面のほか、有利と見られた立地面にもあるかもしれない。 ヨーカ堂は今期、柏や川越を含む30のイトーヨーカドー店舗撤退を公表している。いまだ6店舗は明らかになっていない。有力視されているのは「飛び地」であり、非戦略地域である東海や関西の店舗だ。具体的には愛知県に4店舗、大阪府に4店舗、兵庫県に3店舗ある「イトーヨーカドー」だ。
ヨーカ堂は昨年から今年にかけて、千葉県や埼玉県内に3つのインフラを整備した。加工・調理を集中的に行う自社工場で、店舗の作業負担を軽減しつつ、内製化することでより柔軟な商品開発が可能になるという。 工場運営子会社の担当者によると、「(精肉など)消費期限の短い商品は静岡より西には届けられない」。このインフラ活用はリストラ策が中心の現行の構造改革では成長戦略の柱であるだけに、その恩恵を受けられない店舗は重荷となってくる可能性がある。
もっとも安城店(愛知)、津久野店(大阪)、アリオ加古川店(兵庫)など、直近で衣料品新ブランド導入のための改装が行われたばかりの店舗も一部あり、3府県のいずれも今期中のエリア撤退は考えにくい。ただ「物流面などで非効率さの残る西側の事業は徐々に縮小するのが定石」(グループ関係者)であり、今後の動向が注目される。 ■「ヨーカドーよりオーケーが気がかり」 先出の柏市の担当者は「イトーヨーカドーは地域商業のシンボル。撤退は非常に残念」と語る一方、競合店の店長は「そんなに脅威とは感じていなかった。撤退によるプラス影響もそれほどない。今はイトーヨーカドーよりもオーケーのほうが気がかりだ」とこぼす。
4月、柏駅に併設する高島屋ステーションモール内に、ディスカウント型スーパーとして消費者の支持が強いオーケーがオープンした。記者も訪れてみたが、オープン直後ということもあり、ピークタイムにはカゴと荷物を持っていては身動きが取りづらいほどの混雑だった。 柏市の担当者は「50年間、イトーヨーカドーが地域商業を支えてくれた。これからの50年に向けて新しい動きを起こしていくことが大切」と話し、駅周辺の再開発への意欲を語る。惜しまれつつ撤退が進む一方で、世代交代は着実に進んでいる。
冨永 望 :東洋経済 記者