学校のアンガーマネジメント―行動する・しないは「4つのゾーン」で考える
事例5 何かにつけ、相手をイライラさせる言動が多い小学校5年生
年が明け、小学校6年生の卒業が視野に入るころ、5年生は委員会活動やクラブ活動の中心的な役割を担います。これまで消極的だった児童がリーダーの役割を引き受け、新たな成長を遂げています。その一方で、何かにつけて相手をイライラさせる言動が多く、周囲を困惑させ、やる気をそぐ児童がいます。「適切な指導をしたい」と考えている間にキレた言動が増えて、手に負えなくなりました。
子どもはなぜ“キレる”のか 感情のおもむくまま
学校生活の中で児童が抱く考えや思いはさまざまあります。それを言葉にして表すのか、心の中にしまっておくのかも児童それぞれです。今回のように相手をけなす、その場に関係ないことを言う、感情のままに自分の好き嫌いを口に出すといった言動は、相手への尊敬に欠けていることが多いものです。 また、周囲からは生意気、空気が読めない、協調性がないといったマイナスの評価を受けてしまいます。そのことを本人が自覚しておらず、同じような言動を繰り返すことになります。 こうした言動は「試し行動」にあたるのではないかと思います。自分に興味を向けるためにわざと相手が嫌がる言動を取ってしまうのです。 背景にはこれまでの保護者の接し方、愛情のかけ方などの生育環境の影響が考えられます。11月号で解説した、怒りが生まれるメカニズムの「ライターモデル」を思い出してください。マイナスの感情や状態は、怒りを燃え上がらせるガスとなります。Aくんの心や体の状態を把握したいところです。また、周囲からの叱責や否定、無視、遠巻きにひそひそ話をされるなどの言動により、さらにA くんがマイナスの状態に陥っているとも考えられます。
アンガーマネジメントを取り入れた対応 行動のコントロール「分かれ道」
1月号で紹介した思考のコントロール「三重丸」を使って怒る必要があること、怒る必要がないことの線引きをし、怒っても後悔しない、 許せないゾーンに入れると決めたら、アンガ―マネジメントの3つ目、行動のコントロール「分かれ道」へ。 自分で変えられること/ 変えられないことなのか、自分にとって重要なこと/ 重要でないことなのかの線引きをすると、以下の4つの選択肢(ゾーン)になります。 □変えられる/重要 ➡ すぐに取り組む。 いつまでにどの程度変われれば良いかを考える。 □変えられる/重要でない ➡ 余力がある時に取り組む。 いつまでにどの程度変われれば良いかを考える。 □変えられない/重要 ➡ 変えられないを受け入れ、現実的な選択肢を探す。 □変えられない/重要でない ➡ 放っておく、関わらない。 選択肢(ゾーン)を選ぶ際は、「自分にとっても周りにとっても長期的に見ても健康的か」で判断します。ビッグクエスチョンと言います。 Aくんの言動を糾弾したところで何の解決にもなりません。さらに、指導の対象はA くんだけではないはず。委員会やクラブ活動をとおして学級全員を育てられるよう計画します。以下を参考に取り組みます。 ・クラブ活動や委員会活動の目的や意義、5年生としてできること、やめてほしいことが起きた際の相手への伝え方を考え合う。 ・活動を記録させ、他学年や他学級の児童の良さに気付かせるしくみをつくる。 ・配慮を要する児童を知らせ、同僚の力を借りる。 担任の行動の変容がやがてAくんの変化を生み、学級集団の建設的な関係づくりにも資することでしょう。児童の問題は教師のスキルアップの機会となり、教師力の向上にも繋げられます。ぜひ、行動のコントロールに取り組んでみてください。 川上 淳子 一般社団法人日本アンガーマネジメント協会認定アンガーマネジメントシニアファシリテーター。Edu Support Offifice代表。元宮城県公立小学校教諭。元国立大学法人宮城教育大学非常勤講師。 *『月刊教員養成セミナー2023年2月号』 コロナ禍を経て、なお先行きが見えない今、教室を安心安全な居場所とする働きかけが急務です。アンガーマネジメントの理論と方法は、児童同士、児童と担任を繋ぎ、よりよい関係づくりに活かすことができます。場面指導でも問われるケースを解説します!