広島のプリンスを勇気づけた前田智の言葉
広島に目の色を変えてオフを過ごしている選手がいる。堂林翔太、22歳。プリンスと呼ばれ、サードのポジションを約束されていたが、今季は、8月にデッドボールを受け左手を骨折して戦線離脱。堂林の後に入った木村省吾、小窪哲也らが活躍してチームは16年ぶりとなるクライマックスシリーズ進出を決めた。とうとう復帰が間に合わなかった堂林は、悲しくも忘れ去られた存在となってしまっていた。 ■出場できなかったクライマックスシリーズ 「悔しかったです。でも振り返ってみれば、メディアに持ち上げられ自分で自分を勘違いしていた面もあったのかもしれません。もっと夢中に野球に取り組むべきでした」 甘いマスクに天性の飛ばす力。Bクラスに低迷していた時代に、地元メディアが話題にするのは、たいてい前田健太か、堂林だった。だが、そのプリンスは、CS出場の熱狂の輪に加われなかった。 ■大先輩、前田智徳から学んだもの 一軍に名前を連ねることのできない空白の時間を堂林は、無駄にはしなかった。リハビリ期間中は、広島・大野にある練習場で同じく故障組だった前田智徳、東出輝裕の2人と共にトレーニングをした。濃密な時間だった。2人の大先輩に野球の奥深さを教えられた。 「いろんなことを学びました。技術的なことも精神的なことも。何を学んだかは、秘密にしておきたいのですが、ひとことで言えば辛抱強さでしょうか。2人には『この程度でいいや』っていう妥協が一切ありませんでした」 バッティングにおける技術、練習の中でのルーティン、体のケア、ひとつのことを徹底して続ける野球人としての取り組みの姿勢……。引退してしまった前田には、「やらされるのではなく自分でやることが重要なんだぞ」と説教を受けた。堂林は、2人から再び輝きを取り戻すために必要な何かを学んだ。 野村監督は、キャンプの総括で、「堂林はライトも含めてやらせていく」とコンバート案を明らかにしたが、すでに秋季キャンプからは、外野に取り組み、練習試合などにはライトのポジションで出場している。外野守備担当の高コーチに話を聞いたが「元々肩は強い。打球判断なども悪くないから十分に使える」と及第点を与えていた。