あなたも“争続”に巻き込まれる 4月に相続不動産の登記が義務化、「過料」を科される可能性も
2024年4月から相続によって取得した不動産の登記が義務化された。相続の発生を知り、かつ、その対象となる不動産の所有権を取得したことを知った相続人は、そこから3年以内に相続登記を行わなければならない。正当な理由がなく期限内に登記をしなかった場合は、10万円以下の過料が科されることがある―― 【写真】こんな書類が届いたらどうするか・・・ 既に相続を終えた人や親から不動産を受け継ぐ可能性がない人は「自分には関係ない」と考えているかもしれない。だが、実はこの制度、4月より前の相続で取得した不動産にも適用される。不動産の名義人(故人)の相続人として名義変更の同意を求められる可能性もあり、下手をすれば相続を巡って親族が揉める“争続”に発展するかもしれない。 (森田 聡子:フリーライター・編集者) ■ ある日届いた「親展」の封書 私事だが、以前、郷里の司法書士事務所から突然「親展」の封書が届き、開けてみたら遺産分割協議書が入っていたことがあった。 もちろん、それとは別に手紙が同封され、なぜ遺産分割協議書を送るに至ったかが説明されていた。要は、何十年も前に亡くなった母方の祖母名義の土地が残っており、家督を相続した叔父が自分の名義に書き換えるために、司法書士に依頼して祖母の相続人全員に同意を求めたということだった。 母は筆者が高校生の頃に亡くなっていたので、母の“代襲相続人”として筆者のところにも封書が届いたのだろう。 念のため叔父に連絡して詳しい説明を受けた後、署名・押印した遺産分割協議書や印鑑証明などを司法書士事務所に返送した。とはいえ、いきなり遺産分割協議書が送られてきた体験は結構なサプライズとして記憶に刻まれた。 ところが最近、「突然届いた遺産分割協議書事件」は、それほどレアケースでもないことが分かった。筆者の周りだけでも同様の体験をした人が2人もいたからだ。
■ 土地の名義人は4代前の「高祖父」のままというケースも うち1人は土地の名義人が4代前の高祖父だったこともあり、相続人の何人かは音信不通で興信所を使っても連絡が取れず、名義の変更に至るまでそれは大変だったという。 なぜ今この話を持ち出したかと言うと、この4月から相続登記が義務化されたからだ。 相続登記とは、文字通り、相続で取得した不動産の名義を被相続人から相続した人へと変更する手続きのことを指す。4月以降は相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に正当な理由なしに登記をしないと、「10万円以下の過料」が科される可能性がある。 国が義務化に踏み切った背景には、所有者不明の土地が社会問題化していることがある。2022年度に地方自治体が実施した地籍調査では、不動産登記簿だけでは所有者の所在が判明しなかった土地の割合が24%に上った(国土交通省調べ)。 ■ 日本の経済的損失は累計6兆円に 増田寛也元総務相ら民間有識者による所有者不明土地問題研究会は、所有者不明の土地が2016年時点で九州本土の面積を上回る約410万ヘクタールも存在し、2040年には約720万ヘクタールまで増える可能性があると見積もった。これにより生じる公共事業の遅れや税金の滞納などの経済的損失は、2040年までに累計6兆円に上ると試算されている。 1月に発生した能登半島地震の被災地でも、家屋の所有者が分からなかったり相続登記がされていなかったりして所有者全員の同意を得るのが難しく、倒壊家屋の公費解体の申請ができないケースが続出しているという。