学校一のワルが校長室に乱入! その時ウィッキーさんはどう動いたか
校長室に乱入してきたワル
校長室で校長先生と話していると、突然彼が入ってきました。 「君どうしたんだ」 「校長、あんたに用はない。ウイッキー、俺にも本くれよ」 私は英会話の本を何冊か出していて、番組で答えてくれた方にお礼として差し上げていました。彼は、それが欲しいというのです。 「番組で全部あげてしまって今はないんです。名前と住所教えてください。送りますから。」と答えると、 「大人はみんなそう言うんだ。うちの親も同じだ。何か言えば、いつも『後で』。でも誰も約束は守ってくれない」と怒っています。 結局、校長がとりなして、私が本を送ると約束してもらいました。
ひらがなばかりのお礼状
本を送ってしばらくして、彼の手紙が私のもとに届きました。字は汚くてひらがなばかりですが、家庭の不和、親からの虐待、大人への不信――。ため込んでいたものを吐露するかのような内容でした。 そして、最後に「初めて約束を守ってくれた大人に出会った」と感謝の言葉がつづられていました。彼に対する批判はいくらでもできるでしょう。でも、約束を守るということが彼にとって大事だったのです。 後で校長先生に聞くと、彼の授業態度は変わり、英語の授業で一番前に座るようになったそうです。その影響で学校の雰囲気も良くなったということでした。 当初、この企画にあまり乗り気ではなかったのですが、たくさんの生徒と交流するうちに、生まれついての悪い子はいないのだと実感させられました。 成人式の講演がありあすよね。同じことが言えます。講演をやる人の間で一番評判が悪くて断る人が多いんですね。酔っぱらってどなる新成人もいます。でも、真に受けて怒ってしまってはダメ。私は、彼らに言葉を投げる投手ではなく、彼らの気持ちを拾い上げる捕手の姿勢で臨んでいます。 アントン・ウィッキー 1936年9月26日英領セイロン(現スリランカ)生まれ。セイロン大卒。61年5月、国費留学生として東京大学へ。79~93年に日本テレビ系「ズームイン!! 朝!」に出演。その後、奥羽大教授などを務め、政府や都の英語教育懇談会に参加した。 協力:新潮社 Book Bang編集部 Book Bang編集部 新潮社
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