「古い建物ほど価値下がる」はもう古い? リノベーションで地域づくり
THE PAGE
古い建物や公共施設などを改修して、カフェ風やアンティーク調の個性的な家、部屋に再生する「リノベーション」の取り組みが広がっています。老朽建物は廃棄しかないという考え方にとっては逆転の発想。新しい住宅文化や意識的な住人たちのコミュニティーをつくりだすことで「無縁社会」の解消など社会問題の解決にもつなげたいと意気込む専門家もいます。
入居者が自分の部屋をデザイン
7月18日に長野市のリノベーション事業者などの実行委員会が同市内で主催した「オクリビル」トークイベント。参加した多くの市民が市内にある建設後約50年の県営住宅「鶴賀ビル団地」などを見学しながら、リノベーション関係の専門家の話を聴きました。 イベントの講演では、福岡市などでリノベーションを成功させ、国内外で注目されている吉原勝己さん(53)=株式会社「スペースRデザイン」などの社長=が自身の体験から「最初は古い賃貸マンションの管理を任され苦境に陥ったが、付加価値を付けて新しい商品として売り出したらいいのではないかと考えた」と、リノベーション事業のきっかけを紹介。実際の工事は「前例がない」と関係の業者に断られたため自力で取り組み、「300~400室の施工実績を上げています」。 それぞれの部屋に独自の部屋割りやテーマを設定するなど個性的な部屋づくりがリノベーションの特徴です。吉原さんは「普通は入居者が手を加えた部分は絶対に元に戻さないと次の人に貸しませんが、リノベーションの部屋は入居者が変更した部分をそのままにしておくので、入居者が替わるたびに部屋がどんどん面白くなっていくんです」。 リノベーションにもいろいろあり、「エコ・リノベ」は部屋の元の形をあまりいじらず壁も残したままだが、流木を飾るなどしてまったく印象の異なる部屋に仕上げます。「DIYリノベ」は、専門家が手伝いながら入居者が自分の部屋をデザインして作りだしていきます。
ヨーロッパでは古い建物ほど家賃が高く
リノベーションの工事をしたオフィス・アトリエ向きの建物は「リノベーション・ミュージアム」として料金を取って見学してもらっていると吉原さん。「こうした部屋はただの部屋ではなく、それぞれ特徴を持ったミュージアムなんです」。福岡市博多区にあるリノベーション・ミュージアム「冷泉(れいぜん)荘」(建築後56年)には、外国語教室や和食店、日本画アトリエなど地域の文化人らが集まり、新しいコミュニティーが作られつつあると言います。 吉原さんは「一つのビルをこのようにブランド化し、それを地域に広げていく手法もある。これまでの街づくりや再開発とは違う方向です。しかも建物が古ければ古いほど家賃を上げていくのはヨーロッパでは普通で、ビンテージビルに対する再評価が必要です」と話し、スクラップ・アンド・ビルトの従来方式から、「ビンテージビルの再生」とそこに集まる人のつながりに高付加価値を見つける新しい建物文化づくりを強調。そのためには建物のオーナーと市民の意識を変えることが必要だと指摘しました。 講演会場のビルでは実際にビンテージビルのプロジェクトを進めている長野市の株式会社「アド イシクロ」のリノベーションが進行中。賃貸マンションの一室を「鉄と本と私」をテーマにした部屋に造り替えたり、ミントグリーンの色調をテーマにした部屋などが出来上がりを迎えたりしていました。アド イシクロの石黒ちとせ社長は「これまでに6室の整備が終わりました。さらに進めますが、見学に来た若い人たちの反応がありますね」と話していました。