【MLB】ピート・ローズ氏が帰らぬ人に。歯に衣着せぬ言い方が人気だった
【MLB最新事情】 ピート・ローズ氏が83歳で亡くなった。2010年、イチローが10度目のシーズン200安打を達成し、ローズのメジャー記録に並んだとき、筆者はラスベガスでインタビューをした。当時69歳、MLB歴代1位の通算4256安打を放ったかつての国民的英雄は、レッズの監督時代に野球の試合に賭けたことで殿堂入りの道が閉ざされ、さらに女性問題やギャンブルでの失敗が重なり、メディアからは嘘つき扱いされていた。 しかし彼の人気は依然として健在であった。カードショーなどのイベントではファンに囲まれ、握手や気軽な会話を交わしながら、記念品にサインをし、一緒に写真を撮る姿が見られた。 その盛況ぶりに、私は驚いた。彼の話も面白かった。どんな質問に対しても歯に衣着せず、率直に答えるからだ。イチローが記録に並んだことについての取材なのだから、普通はまずイチローをたたえるだろう。しかし彼はこう切り出した。 「聞いてほしい。私は198安打のシーズンが1972年と78年の2度あった。そのうち72年はロックアウトでシーズンが13日間キャンセルされた。また、81年はストライキで2カ月間シーズンが中断。私は107試合で140本だったので、225本ペース。だから12度、ないしは13度200安打をマークできていたはず。来年イチローに抜かれたら、私の記録はMLB記録ではなくナ・リーグ記録になってしまう。それは寂しい」 新たなスターをたたえるのではなく、69歳の彼はまるで子どものように自らの優位性を主張した。しかし同時に、イチローを自身が好むタイプの選手であることも明らかだった。 「200安打を10度も打つには、大きなケガがないこと、スランプも少ないこと。そして打席にたくさん立つこと。六、七番ではとうてい無理だ。イチローの四球が少ないことを批判する人もいるが、私はそうは思わない。彼はヨギ・ベラやロベルト・クレメンテのように悪球でもヒットにする技術があり、あの高打率なのだから構わない。最近は低打率で三振が多いのに、30本塁打以上打てるからと試合に出る選手が増えている。イチローはホームランこそ少ないが、守備でも走塁でも打撃でもいろんなことができる。タイ・カッブもそんな選手だった。今の時代、こういう選手をもっとリスペクトすべき」 近年はさらに本塁打か三振かという選手が増えている。そのことに危機感を抱くMLBはゲームのアクションをより多彩に、娯楽性を高めようと躍起になっている。現役時代のローズは少年のような情熱をもって走攻守にプレーし、「チャーリー・ハッスル」と呼ばれたが、今のMLBでは彼のような選手が必要とされている。 一方で、イチローの日米通算記録は認めない頑固者だった。「日本の野球を悪く言うつもりはないが、私がいったい、何人のサイ・ヤング賞投手と対戦したと思うのか。私は日本にも何回か行って、対戦している。王(王貞治)さんはMLBでもオールスターに選ばれる打者だと思ったし、金田(金田正一)も素晴らしい投手だ。でも、日本のプロ野球とMLBは同じではない」と敬意を払わない。明らかに聖人君子ではない。しかし、その率直さから人間味にあふれ、魅かれる人物だとも思ったのである。 文=奥田秀樹 写真=Getty Images
週刊ベースボール