草彅剛、“ずっとトライし続けたい”舞台での挑戦 「一番大事な仕事なのかもしれない」
草彅剛、公演中のルーティーンとは?
――先ほど「時代によって価値観が大きく変わる」というお話がありましたが、草彅さんから見てシャイロックはどのように映りましたか? 草彅:どうなんでしょうかね。なんか そんなに難しい話をするつもりはないんだけど、人の善悪って簡単には決められないと思うんですよ。立ち位置が変わると、この人にとってはいい人だけど、あの人にとっては悪い人だってなるので。だけど、僕は今回観る人に「シャイロックって悪いやつだな」って思われるように演じたいなと思っています。そのほうが舞台として面白いから。シャイロックがいい人か悪い人かって、僕にとってはどっちでもいいんですよ。重要なのは、そこにシャイロックっていうやつがちゃんと存在してる感だから。でも、たぶん普通の人なんじゃないかなって思うんですよ。詳しいことはわからないけれど、時代によってはそういう人種や職業や宗教だっていう理由だけで、その人が虐げられる時代もあったわけだし。だからシャイロックも、きっと自分なりに普通に生きようとしていた人なんじゃないかなって。ただ、舞台を観に来る人にとっては、やっぱり「稀代の悪役」って言われているキャラクターだから、僕は悪そうにしたいですね。 ――その「悪いやつだな」と思われるようにする、演技の作戦はあるのでしょうか? 草彅:わかんない(笑)。でも、声の出し方とか表情とか、 普段聞いたことのないような声とか、そういう感じにしたいよね。悪役っていうイメージはやっぱりあるじゃないですか。性格って声とか目つきとかに出ると思うし。けど、やりすぎると、なんかあたかもって感じで、逆に怖くなくなったりすると思うわけ。むしろ飄々として……例えば、普段の僕の話し方なのに、そのままひどいことやってるほうが、逆になんかサイコっぽくて怖いとかね。やればやるほどしらけちゃったりとかするから、そこが演技ってめちゃめちゃ楽しい。今回は、どこまで自分が悪くなれんのかなっていう挑戦ですね。 ――それは稽古をしながら固めていくものなんですか? 草彅:そうですね、やっぱり稽古をして方向性は決まっていくんですけど、あまりにも「これが正解」みたいにガッチリ決めると、なんかつまんないような感じになっちゃうので。そこまで決めきらずに本番の日々で出来上がればいいかなって思ってます。もちろん、あまりにも毎回違っちゃうと相手の役者さんとかに迷惑かけちゃうから気をつけたいんだけど。そこはもう「受け止めて!」って感じ(笑)。セリフだけはちゃんと台本通りやるから。あと上演時間もね。急に1分くらい間を取ってしゃべらなかったりしたら困らせちゃうと思うし。セリフと、セリフの間だけは守るから、あとの感じはそのときの波長でやらせてくれよ、って思ってるの。それに実は私、役作りとかよくわかってなくて。よく「役と自分の共通点はありますか?」とか聞かれたりもするけど、わざわざ探さないっていうか。たぶん、あんまりないし(笑)。大体、わかんないですよ。シャイロックの本当の苦しみとか、ましてや何百年も前に生きていた人たちの感覚なんて。そんなことより、いかに劇場に来てくださったお客さんをこの世界観とか空気感に誘えるかってことのほうが大事なので。だから、僕はあんまり難しく考えずに、いい意味で適当にやっていこうと。何もない私ですけど、何かあるようにするのが演技だから。 ――舞台はナマモノと言われますが、まさにですね。 草彅:そうそう。なんかさ、みんなうまくいってるのって、むしろつまんないみたいなんだよね。エゴサしてても、お客さんが「つよぽん、だんだん声が枯れてきてた、うっししし」って感じで楽しんでるのよ! 舞台に立ってても、ちょっとガタガタしているほうが「ん!?」って注目されるの。もちろん、下手になるってことじゃなくて。それよりも大きな声を出して、必死に食らいついて、ボロボロになっていくところが観たいんじゃないかなって。今回も台本を見ると、セリフがすごくいっぱいあるんですよ。それだけでも絶対必死になるし、あたふたするし、頭から煙が出てくるみたいな感じになると思うんで。どう考えても面白い舞台になると思いますよ。 ――これまでもたくさんの舞台を経験されてきましたが、あらためて舞台の仕事についてどのような魅力を感じられていますか? 草彅:舞台って、自分と一番向き合える場所なんですよね。舞台って2回目はないじゃないですか。止めて「もう1テイク!」っていうわけにはいかなくて。本来はドラマも映画もそうであるべきなんですけど、やっぱりそこは僕も人間なんで、やり直しができるってわかっちゃってるから。舞台は、そういう意味で緊張感が違うんですよね。正直、稽古も何度も何度も同じことやって飽きちゃうこともあるし。台本も自分のセリフのところしか読んでないですしね(笑)。でも、僕もいつの間にか立派な大人になっちゃってね。だんだん共演者も監督も僕より年下になってきちゃったりしてさ。怒ってくれる人がいなくなっちゃってるから、舞台の神様に叱っていただいてるって感じかもしれない。協調性を持って稽古に真面目に取り組むとか、本番と同じくらい声を張り上げていくとか、台本をしっかり読むとか(笑)。基本的なことってやっぱ人として大事だなって思い返したりね。あとは、いつもより生活面もルーティーン化して正される感じがあります。僕自身が生きていく上で、舞台の仕事を通じてめちゃくちゃ大事なことを学ばせてもらっていますね。 ――公演中は、どのようなルーティーンがあるのでしょうか? 草彅:毎日カレーそばを食べるようになりますね。イチロー選手が朝にカレー食べるって有名じゃないですか、そんな感じで。なんか好きなんですよ、中学生ぐらいからずっと好きなの。カレーうどんよりも、カレーそば派! なので、舞台があるときは必ず劇場の近くのおそば屋さんをリサーチしてもらっています。メニューにカレーそばがなかったら「お願いします」って作ってもらったりして。「あの劇場ならここ!」みたいに、各地にお気に入りのお店がありますね。あとは、いつも夜10時には寝て、 朝は8時か9時ぐらいに起きて、コーヒーを飲んだら、ちょっといつもより多めにストレッチしています。深く深呼吸して「今日も1日無事に舞台を務めることが、私、剛くん、できんのかな?」って体と会話してますね。 ――舞台は体力勝負なところもありますが、体力をつけるためにやっていることは? 草彅:あ、僕ちゃんはね、普段から毎日HIIT(ヒット)トレーニングとかやってるんで。特別、舞台中だからって新しいことをやることとかはないですね。偉いんですよ、私。日ごろから“チョレーニング”してるんで(笑)! 正直、やっぱり体力って年齢とともに衰えていくもので、僕も20代に比べたら当然落ちてると思うんです。でも、そこは経験とかメンタル面でカバーできることってたくさんあると思うから。フィジカルとメンタルの両立が大事ですよね。結局、人間ってそうじゃないですか。フィジカルはあっても、メンタルによって「ちょっとできない……」とかなっちゃうもんで。そのへんのバランスも考えてエンジョイしなきゃなって思っていますね。そういう意味でも、好きなカリ~そばを食べているのかもしれない! ――舞台と共に劇場近くのおそば屋さんもチェックしてみたいと思います(笑)。では、今後の舞台への思いも聞かせてください。 草彅:もちろん映像とかもやらせてもらってるんですけど、歌を歌うってことも“舞台に立つ”ってことだし、僕が人前で生で何かを表現するっていうのは、この仕事の1番芯を食ってる部分なのかなって思っているんです。なので、できる限り舞台に立ち続けていきたいし、そうすることが僕自身のストーリーになっていくんじゃないかなって思います。だって、いつかは絶対に立てなくなるときがくるものだから。もしかしたら物語によっては、ずっとベッドに寝ているだけの役もあるかもしれないけど(笑)。でも、そんなようなことも考えるんですよね。健康だったり、元気じゃないとできないことだなって。だから、自分にとって舞台に立ち続けるってずっとトライし続けたい挑戦であり、一番大事な仕事なのかもしれないですね。
佐藤結衣