「負の連鎖」真田広之『SHOGUN』が快挙の一方、“ジリ貧”時代劇が復活するための「鍵」
「私たちは奇跡をつくることができました」 『エミー賞』の授賞式で、満面の笑みを浮かべながらコメントした真田広之(63)。自身がプロデューサーと主演を務めたドラマ『SHOGUN 将軍』が作品賞、主演男優賞、主演女優賞など合わせて18部門という史上最多の受賞数で“天下”を取った、まさに晴れの舞台でのスピーチだった。 【写真】「若いころのお父さんソックリ!」真田広之の俳優息子の近影 日本の時代劇が持つ魅力を全世界に配信した『SHOGUN 将軍』だが、本家・日本での時代劇ドラマは、なんとも寂しい状況に置かれている。専門の時代劇チャンネルを除くと、地上波ではNHKの大河ドラマと特番以外、ほぼ放送はない状態だ。
“負の連鎖”の背景事情
「今、日本で時代劇というコンテンツは“負のスパイラル”に陥っているんです」 こう話すのは元東映太秦映画村の社長で、現在は立命館大学映像学部教授である山口記弘さん。 「時代劇のブームは、'51年に黒澤明監督の『羅生門』がヴェネチア映画祭で金獅子賞を取ったときに始まり、東映でいえば'60年、'61年には年間100本弱の映画が製作されました。そこから'70年代に映画からテレビドラマに娯楽が移り、時代劇ドラマを年間370話くらい制作。 ピークは'80年代で、JAC(ジャパンアクションクラブ)の千葉真一さんが主演した『服部半蔵 影の軍団』や、続編で真田さんも出演された『影の軍団2』など制作されました」(山口さん、以下同) しかし'90年代になると、バブル経済の崩壊などで制作現場にも影響が出始めた。 「時代劇はお金がかかるんですよ。小道具やセットなど、現代のものとは違うのでコストがかかる。また、内容的にも勧善懲悪のワンパターン化していますから、若い視聴者はトレンディードラマやバラエティーなどに流れてしまいました。 視聴率が取れなければ、制作費はより縮小されますし、人材も集められない。そうなると熟練のスタッフから若いスタッフへの技術の継承もできなくなります。使えるお金が少なくなり、まさに負の連鎖なんです」 しかし『SHOGUN 将軍』が海外でウケたことが、時代劇を取り巻く環境を変える潮目にもなりうる、と山口さんはこう続ける。 「『SHOGUN 将軍』はセリフの7割が日本語。それでも海外で受け入れられたのは、日本の文化に対しての理解が進んでいるからだと思います。インバウンドで日本を訪れ、日本文化や食べ物などに接して“本物”を体験する海外の人たちも増えています。また、アニメやゲームのコンテンツも世界で日本モノがヒットしているという背景もあります。 本当に魅力のある作品ならば、『SHOGUN 将軍』のように、世界から出資してもらえるでしょう。時代は映画からテレビドラマ、そして配信へとトレンドが変わってきました。国内だけを見ているのではなく、国際マーケットを見据えてこそ、時代劇は“プラスのスパイラル”に変われると思います」