全盛時の10分の1しか売れない「スポーツカー」! たとえ不人気だろうが電動化しようが「消えることはない」と断言できるワケ
スポーツカーは今後も増えることがない?
スポーツカーの復活を願うクルマ好きは多いだろう。かつて人気の高かったシルビア、プレリュード、セリカ、RX-7、ランサーエボリューションなどは、いまでも愛好家が多い。そのために、ジャパンモビリティショー2023に「ホンダ・プレリュードコンセプト」やロータリーエンジンを搭載する「マツダ・アイコニックSP」などが出品されると、大きな注目を集める。 【画像】これがついに最終モデル! 2025年式日産GT-R ただし、車両の開発には膨大なコストがかかり、堅調に売れなければ甚大な損失を被る。2009年に発表されたスーパースポーツカーのレクサスLFAは、想定される開発費用に対して、生産予定台数が500台と明らかに少なかった。開発者に「価格が3750万円でもLFAは赤字ではないのか?」と尋ねると「F1に参戦するようなものと考えてくれ」と返答された。 LFAのように、イメージリーダーとしての存在価値に重点を置くスポーツカーも、歴史を遡ると皆無ではないが、あくまでも例外だ。基本的には勝算がないと商品化には踏み切れない。 そしていまは軽自動車/コンパクトカー/ミニバンに加えてSUVの販売比率も増えたから、スポーツカーを含めたクーペは売りにくい。2024年上半期(1~6月)の1カ月平均登録台数は、クーペの最多販売車種になるロードスターが826台、GR86は667台、BRZは294台、フェアレディZが262台という具合だった。
クーペやスポーツカーが絶滅することはない
一方、クーペが豊富だった1990年ごろを振り返ると、登録台数が増える3月には、S13型シルビアが1カ月で1万台以上を登録することもあった。3代目プレリュードは約7000台、5代目セリカも6000台前後を登録した。いまのクーペ市場は、1990年頃の10%以下まで減っている。 つまり、いまの日本におけるクーペは、どう頑張っても「月販1000台以下のクルマ作り」だ。ただ、ビジネスとして成立しにくいが、たとえばフルモデルチェンジをしないで17年間にわたって販売しているGT-Rのように、ひとつの世代を長く作る方法はある。1カ月当たりの販売台数が少ないから、長く作ることで生産台数を増やす。 ただし、容易ではない。長く作り続けるには、開発段階において、時間を経過しても色褪せない普遍的な魅力を備えた商品に仕上げる必要があるからだ。近年のGT-Rは、1カ月平均で70台前後が安定して売られ、2024年の上半期には、改良の影響もあって1カ月平均が100台以上まで増えた。 GT-Rが発売から17年を経過しても売れ行きが増える息の長い人気車になった理由は、ほかの国産スポーツカーに負けない動力性能と走行安定性を備えるからだ。GT-Rには衝突被害軽減ブレーキは一切装着されず、先進安全装備は軽自動車にも負けるが、購買層は少数でも確実に存在する。こういったクルマ作りをすることが不可欠になる。 そして、モデルチェンジの周期が長いのであれば、常に綿密な改良を施す必要も生じる。少数でも長く安定的に売るには、その車種のファンを生み出し、定期的に乗り替えてもらうことが条件になるからだ。最初に購入したあと、フルモデルチェンジしないのに5年ごとに乗り替えるためには、少なくとも2年に1回は商品力を維持できる改良を加えねばならない。この開発体制作りも重要だ。 そして、今後は電動化を視野に入れる必要がある。これから先、ひとつの車種をGT-Rのように20年近く売るには、電動化の道筋を立ててからでないと難しい。いまは従来のパワーユニットから電動中心に発展する過渡期にあり、クーペやスポーツカーは開発しにくい。従って、これらのクルマは一時的に姿を消すかも知れないが、必ず復活する。クーペやスポーツカーは、カッコよくて運転が楽しいという、クルマの魅力の本質を突いたカテゴリーであるからだ。
渡辺陽一郎