デビュー作から「アンナチュラル」、最新作『ミッシング』まで。トップ女優・石原さとみが歩んだ軌跡とネクストステージ
この春より3年ぶりの連続ドラマ「Destiny」で初となる検事役に挑み、疑惑が渦巻く過去と対峙する、芯の強いヒロインに扮している石原さとみ。さらに現在は『空白』(21)、『神は見返りを求める』(22)の吉田恵輔監督とタッグを組んだ『ミッシング』が公開中。とある街で起きた幼い少女の失踪事件と、それにより人生を狂わされていく家族の姿を生々しく描いたサスペンスドラマだ。 【写真を見る】「失恋ショコラティエ」「校閲ガール」「アンナチュラル」など人気作ばかり!トップ女優・石原さとみの代表作を振り返る 本作で石原は、SNSの誹謗中傷にさらされる母親役を熱演し、その衝撃的ともいえる演技が絶賛されている。これまでドラマや映画で観てきたどの彼女とも違う、見たことのない姿が印象的だ。今回はそんな国民的女優・石原さとみの代表作を振り返りながら、数々の作品を経て辿り着いた『ミッシング』での新境地について紹介していく。 ■筒井康隆原作『わたしのグランパ』(03)で女優デビュー 東京都出身の石原さとみは、筒井康隆原作『わたしのグランパ』(03)で女優デビュー。この作品は、13年の刑期を終えて刑務所から戻ってきた祖父と、孫娘の交流を描いたヒューマンドラマだ。石原は祖父役の菅原文太を相手にその孫娘である珠子を瑞々しく演じ、第27回日本アカデミー賞優秀新人賞、第46回ブルーリボン賞新人賞、第25回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞ほか多数の賞を受賞。また同月には初の連続テレビドラマとなる「きみはペット」でキャリアウーマンのスミレ(小雪)のペットになるモモ(松本潤)の元恋人役に。さらに同年9月からは、ミュージカル調でおくる異色のNHK連続テレビ小説「てるてる家族」で四姉妹の末っ子の冬子を元気に演じるとともに“語り”も務めるなど、女優として好調なスタートをきっている。 ■「失恋ショコラティエ」「校閲ガール・河野悦子」ほか代表作となるドラマも多数! その後も吉永小百合主演作『北の零年』(04)や小栗旬と共演した「リッチマン、プアウーマン」など数々の映画やドラマでキャリアを積んでいくが、そんな彼女の出演作の中でも人気の高い作品の1つが「失恋ショコラティエ」だろう。人気少女コミックを実写化したこの作品で彼女が扮したのは、天才ショコラティエの爽太(松本潤)から片思いされる高校の先輩である沙絵子。爽太はチョコ好きの沙絵子を振り向かせたい一心でフランスへと修行に行き、帰国後にはチョコレート専門店「ショコラヴィ」のオーナーになるのだが…。石原は、人妻になっても爽太をなにかと翻弄する小悪魔の沙絵子をあざと可愛く演じきった。 そして「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」も大人気のテレビシリーズだ。ファッション誌のエディター志望にも関わらず校閲部に配属された主人公が、校閲という仕事の奥深さに気づいて人間的に成長していく本作。ヒロインの悦子に扮した石原は、何事にも一生懸命で正義感の強い主人公を明るく元気に体現。そのスーパーポジティブな姿勢が悩める現代女性を勇気づけると評判に。ファッショナブルな悦子の衣装も彼女にとても似合っていて、放送後は番組で着用した衣装が在庫切れするプチ社会現象も巻き起こした。 また、石原の代表作として「アンナチュラル」も捨てられない。舞台となるのは「不自然死究明研究所(Unnatural Death Investigation Laboratory:通称UDIラボ)」という架空の研究機関で、所員たちの鋭い観察眼と探求心によって“不自然な死”の真相が明らかとなっていく。この作品で彼女が演じたのは死因究明のスペシャリストである法医解剖医の三澄ミコト。一見クールでサバサバしているように見えるミコトを、石原は心の奥に熱い想いを持つ人物として表現し、幅広い層から支持を得ている。 なお、この大ヒットシリーズが『ラストマイル』(8月23日公開)のタイトルで映画化され、6年ぶりにカムバック。シリーズ最新作では、流通業界のイベント「ブラックフライデー」前夜に起きた連続爆破事件の謎にUDIラボの面々が挑む。綾野剛×星野源W主演作「MIU404」と世界線を交差させるシェアード・ユニバースで展開していく完全オリジナルストーリーで、期待が高まっている。 ■卓越した演技力と入念な役作りで多彩なジャンルに挑戦! 舞台女優としても活躍する石原は、作品への深い理解と役柄の徹底的な研究で、その演技力が高く評価されてきた。演じる役柄も幅広く、過去には「霊能力者 小田霧響子の嘘」でエセ天才霊能力者に扮したり、「高嶺の花」で冴えない自転車店の店主と恋に落ちる華道の名門「月島流」本家の長女を艶やかに演じたことも。また庵野秀明総監督、樋口真嗣監督による『シン・ゴジラ』(16)では、日系アメリカ人の米国大統領特使を好演。英語交じりの日本語というセリフ回しはもとより、「心情を読み解くのが難しい人物で、現場で胃が痛くなるくらいプレッシャーを感じた」と後に彼女は語っているが、この役で第40回日本アカデミー賞の優秀助演女優賞を受賞している。 さらに綾野剛共演作「恋はDeepに」では海を心から愛するワケありのヒロインを体当たりで演じ、浅野内匠頭の奥方である瑤泉院役を演じた『決算!忠臣蔵』(19) ではコメディエンヌの才能も披露。話題となったのは永野芽郁、田中圭と共演した『そして、バトンは渡された』(21)で、石原は初の母親役となるシングルマザー役にトライ。次々と夫を替える自由奔放な人物を嫌味なく演じ、ラストには深い感動を与える物語のキーパーソンを担った。 ■常にアップデートし続ける石原が『ミッシング』で衝撃的演技を披露 このようにトップ女優として第一線を走ってきた石原だが、ある時、どこか仕事に飽きている自分に気が付き、焦りを感じたことがあったという。そんな状況を打開すべく吉田恵輔作品への出演を直談判したのが7年前、そのたっての願いが叶い、結実したのが『ミッシング』だ。 娘が失踪して3か月。娘の失踪時に沙織里(石原)が、推しのアイドルのライブに行っていたことが発覚し、“育児放棄の母”との誹謗中傷がネットを駆け巡る。あらゆる手を尽くしても愛娘が見つからずに焦りばかりが募るなか、淡々としている夫(青木崇高)に苛立ち、孤独に苛まれる沙織里。娘を想う母の強い愛情が共感の涙を誘い、次第に心を失くしていく姿が鋭く胸をうがつ。そんな極限状態の母親像を具現化した石原の鬼気迫る演技は圧巻だ。 5月18日に行われた『ミッシング』の公開記念舞台挨拶に登壇した吉田監督は「俺や石原さんの分岐点となる作品」と称しているが、その言葉通り、石原は持てる才能を全て本作に注ぎ込み、女優としてネクストステージへの第一歩を踏みだした。彼女の新たな代表作となるのは間違いない『ミッシング』。シン・石原さとみの熱演と覚悟をぜひ劇場で堪能してほしい。 文/足立美由紀 ※吉田恵輔監督の「吉」は「つちよし」が正式表記