ミスが、そのまま学名に? 植物の「ネームプレート」の楽しみ方
街路樹や公園などでも見かける植物のネームプレート。じつは、この情報だけでも楽しめます。プレートに書かれている情報の読み方を、『道草ワンダーランド まちなか植物はこうして生きている』(著・多田多恵子)から紹介します。
学名と和名
よく公園の木にこんなプレートを見かけます。これは種名の表示板。イチョウは和名、Ginkgo biloba L.はイチョウという種の学名です。学名は国際命名規約に基づく世界共通の名で、動物も含めて生物はすべて種別に学名がつけられています。 学名は属名+種小名の組み合わせで表します。人の名前を姓+名で表すのと似ていますね。イチョウの種小名のbilobaのbiは2、lobaは裂片という意味のlobeをラテン語化したもので、イチョウの二つに裂けた葉のかたちを表しています。末尾のL.はイチョウの命名者で分類学の祖として知られるリンネLinnaeusの略号です。学術的には命名者名も必須ですが、一般にはよく省略されます。 和名は日本での呼び名です。学名と違って厳密な規則はありませんが、標準的な名を標準和名とし、教科書など科学的な記述の際はカタカナで書きます。
スウェーデンの生物学者、カール・フォン・リンネ。花のしくみの特徴から植物を24に分類し、およそ8000種を振り分けていった。
種、属、科
新しく刊行された図鑑を開くと、科の名前が以前とはかなり変わっています。たとえばムラサキシキブはクマツヅラ科からシソ科に、オオイヌノフグリはゴマノハグサ科からオオバコ科に、カエデ科はムクロジ科の一部に、といった具合です。 従来の分類は、おおざっぱに言えば、花を中心に植物の形を調べ、似たものを仲間とするものでした。しかし近年、DNAなど生物のしくみや進化の道筋が解明され、同じ祖先をもつものが近い仲間であるという考え方に転換しました。こうして構築されたのがDNAに基づく「APG分類体系」で、研究の進展とともにバージョンアップを重ねています。本書もこれに沿っています。 学校で「被子植物は双子葉植物と単子葉植物に分けられる」と教わった方もおられるでしょう。でも新しい分類体系では、双子葉植物と単子葉植物が分かれるより前に、原始的な被子植物が存在したことが示されています。それがスイレンやシキミ、センリョウ、モクレンなど、古い時代にルーツをもつ原始的被子植物(基部被子植物)で、恐竜が栄えていた中生代の白亜紀以降に化石が出てきます。 こうした背景から、最近の専門的な図鑑は、原始的被子植物、単子葉植物、真正双子葉植物(原始的被子植物以外の双子葉植物)に分けて植物を配列しています。
ミスが、そのまま学名に?
ところでイチョウの属名Ginkgoはどういう意味なのでしょう。 じつはおもしろいエピソードがあります。イチョウの押し葉標本は、江戸時代の日本で採集されてヨーロッパに渡りました。漢字の「銀杏」は「イチョウ」または「ギンナン」と読みますが、どこかで間違えて「Ginkyo(ギンキョウ)」となり、さらにyをgに取り違えたため、Ginkgoが正式な学名となってしまったのです。欧米ではギンクゴではなくギンコーと呼び、ギンナンはギンコーナッツと呼んでいます。 *本記事は多田多恵子『道草ワンダーランド まちなか植物はこうして生きている』(NHK出版)を抜粋・再編集したものです。