同性婚と「両性の合意」 排除したい人たちの誤り
「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」とある憲法24条1項は、同性の結婚を認めない規定でしょうか。憲法学者で武蔵野美術大学教授の志田陽子さんに聞きました。【聞き手・須藤孝】 【写真】同性婚訴訟の控訴審判決後、喜び合う原告ら ◇ ◇ ◇ ◇ ――今年3月の札幌高裁判決は、同性の結婚を認めない民法などの規定は憲法24条1項に違反するとしました。 志田氏 現行の結婚制度を変えなければならない必要を指摘しました。 24条1項は、結婚をしようとする当事者の具体的な権利を保障しています。これに反するとしたことは、国によって当事者の権利が侵害されているのだから変えなければならないと言っていることです。法のどこをどう変えるべきかを具体的に言ったことになります。 ◇「両性」の文言 ――1項では「両性」の文言が問題になります。 ◆両性という言葉が使われているのは、憲法制定過程からいえば、戦前の日本の女性の立場があまりにも従属的だったからです。 当時の法律で決まっていた男性と女性の間の支配関係は、人権の本質に反するものでした。それを乗り越えるために、あえて「両性」という言葉を使ったのです。 この言葉から、結婚の自由を男女の異性に限定すべきだと考える必要はありません。24条1項は、当事者2人の合意のみで結婚が成立するという規定なのですから、国はその届け出を受け身で受け付けるべきなのです。 今のルールでは、合意した2人の結婚を国が作った制度が阻んでいることになり、憲法違反になります。 ◇特定の人を排除するのは ――学説の主流とは違いますが、1項は男女の結婚以外を排除していると言う人がいます。 ◆憲法の条文に、その人の好みを読み込んでしまっているのではないでしょうか。しかし、そのことで実生活で不利益が起きて困っている人がいます。 憲法が保障する人権について、限定的な価値観で特定の人を排除するのは憲法が採っている方向ではありません。 ――なぜ憲法があるかを考えれば、ということですね。 ◆結婚を、その権利をすでに持っている人だけの権利だと言ってしまえば、人権を特権にすることになります。それは憲法の基本的な方向にも、14条の「法の下の平等」にも反する考え方です。 24条1項の言葉の表面的な解釈を理由に、特定の人を結婚する権利から排除するのは14条からも24条からも憲法違反ということです。 ――憲法を作った時には想定されていませんでした。 ◆想定されていなかったと開き直るのではなく、権利保障が及んでいなかったことを反省するべきです。 社会から排除されている人は、その時点では見えにくいために、社会はそのまま進んでしまうことがあります。憲法や法律ができたあとで、排除されている人がいることに気がつくのはよくあることです。 ◇「社会を壊す」? ――反対は強力です。 ◆特定の価値観で他人を排除したい人がいることが問題です。しかもそれが政治家をしばっています。 米国でも1960年代から、性的少数者への攻撃が強まり、同性愛者の権利を認めない人たちが政治家の判断をしばることが起きました。「文化戦争」とも言われます。 日本もそうなっています。どうしてある人たちが結婚できるようになると、「社会を壊す」のでしょう。 ――裁判で闘うことができる人ばかりではありません。 ◆声を上げられない人はたくさんいます。その声が国会に届いていない状態で、裁判所が遠慮して、「対応するのは国会の仕事です」と言ってしまえば、民主主義の血行不良が起きます。 国会は、今のままでいいと開き直ってはいけません。少数者の声が届きにくいことを前提に、国会の側からあゆみよって当事者の生きにくさを把握する必要があります。 裁判所がその仕事を国会にゆだねると言うのならば、民主主義が機能して、少数の人のニーズを本当に見ているかを、厳しく問わなければなりません。(政治プレミア)