日本人は休めない? 安息日と休日の違いとは 橋爪大三郎(社会学者)
一神教には、安息日(Sabbath)というものがある。これを、休日や祝日とごっちゃにしてはいけない。 神(God)は、天地を六日で造った。天と地だけでなく、太陽も月も星々も、海も空も、動物も植物も、人間も、すべて造ったのだ。これを、六日間かけて造ったと、創世記には書いてある。そのあと、七日目は、安息した。安息とは、仕事をしないこと。疲れたから休む、のではない。神は疲れない。さらに、神は言った。この日を覚えて、聖なる日とし、お前たち人間も、奴隷も家畜も、安息するように。この掟が、安息日である。 神が天地を創造したと考える一神教は、一週間を単位にする。一週間は日曜日から始まるから、七日目の土曜日が安息日。ユダヤ教徒は、だから、土曜日を安息日として守っている。安息日には、とにかく働いてはならない。農業もビジネスも休み、主婦は料理をつくらない。乞食が手を伸ばして台所の余りものを手にするのはいいが、家人が余りものを手渡してはいけない、などといった、細ごました規定がユダヤ法には整っている。 労働は、人間が必要に応じて行なう、人間の務め。それに対して、安息は、神に対する人間の神聖な義務である。安息日に人びとは、神を思い、祈りの時を過ごす。 聖書に明文の規定があるのに、キリスト教徒は土曜日でなく、日曜日に礼拝を行なう。イエス・キリストが日曜日に復活したからだという。初期教会の時代からの習慣だ。イスラム教徒は、金曜日を安息日とし、モスクで祈りを献げる。イスラム教の聖典クルアーンに、安息日は金曜日であると、明文で書いてある。 一神教には、そのほかに、特定の記念日(祝日)がある。ユダヤ教には、過越祭、七週祭、仮庵祭。キリスト教には、クリスマス、復活祭(イースター)、聖霊降臨祭(ペンテコステ)。イスラム教には、断食明けの祭、犠牲祭。神と関係のあるこうした特定の日を覚えて、人びとは祝い、祈り、喜ぶ。 一週間などという習慣は、乾燥地帯で雨が少なく、奴隷制の農業を行なっていた地域の習慣だ。ほっておくと際限なく働いて、労働力や家畜が消耗する。それを保護するため、神が命じたことにして、一斉に休養をとるのである。