きっかけは浅田真央さん…【女子フィギュア】13歳の大器・上薗恋奈が追いかける「意外な先人」の名前
大一番で、原石が一筋の光を放った。 昨年12月下旬、長野市ビッグハットで開催されたフィギュアスケート全日本選手権。坂本花織(23・シスメックス)が貫禄の3連覇を成し遂げた女子で、13歳の上薗恋奈(LYS)が大健闘となる4位に入った。 【写真】13歳ながら圧巻…!上薗恋奈が全日本選手権で見せた「美しき演技」 ショート、フリーともに持てる力を存分に発揮し、合計得点は自身初の200点の大台に。女子では小学5年で3位に入った伊藤みどり以来、43大会ぶりとなる中学1年以下での表彰台にはわずか1・49点届かなかったが、あどけない表情でこう言ってのける姿が清々しかった。 「今できることを全部出すことだけを考えていて、点数にはこだわっていなかったので(200点超えに)すごくびっくり。上手な選手のたちの中で滑れたっていうのはすごく感謝ですし、これからに活かしていきたいなと思っています」 フィギュア王国である愛知県北名古屋市の出身で、競技を始めたきっかけも「いかにも」なものだ。4歳の頃、愛知では年明けの恒例行事となっているアイスショー「名古屋フェスティバル」を家族で観に行った際、当時24歳だった浅田真央さんから直接手を振ってもらったことが忘れられず、5歳で氷上に立った。 本格的にリンクに通い出したのは7歳からだが、宇野昌磨(26・トヨタ自動車)を育てた樋口美穂子コーチに才能を見いだされ、めきめきと実力をつけていき、ジュニアより一つ下のカテゴリーにあたるノービスで昨季、日本一に輝いた。5種類全てで3回転ジャンプを癖なく跳べることもさることながら、最大の武器は「表現するのが好きなので、スケーティングというのを意識している」と臆することなく言える表現力だ。 ジュニア1年目の今季、身長158㎝のすらりとした体格と長い手足を生かしてショートでは『New Moon』、フリーは『Pray』を演じる。昨年9月、ジュニア・グランプリ(GP)シリーズの2戦に挑み、初戦でいきなり2位の好結果を得ると、2戦目のポーランド大会では優勝。とんとん拍子に初出場を決めたジュニアGPファイナル(北京)でもSP、フリーとも自己ベストをマークして表彰台に上った。試合後、満面の笑みを浮かべてこう語った。 「この舞台で自分の演技ができたのは、すごく良かった。3位を取った実感はないけど、メダルを見てすごくうれしかった。楽しんで滑れたことと、自分の魅力を出せたことはすごく良かった」(上薗) 日本スケート連盟からの推薦出場となった全日本選手権では、ショートで自己ベストに迫る66・22点を出して6位につけると、フリーは最終組で演技。世界女王の坂本だけではなく、世界選手権代表入りを懸けた各選手の熱のこもった練習を前に気後れする部分もあったが、樋口コーチから「13歳で出れる全日本はこれが最後だよ」と背中を押され、「『今』に集中してやりきることを心がけた」とスイッチが入った。 冒頭のルッツ‐トーループの連続3回転ジャンプを鮮やかに決めて勢いに乗ると、レイバックやフライングシットなど三つのスピンは全て最高難度のレベル4を獲得。持ち前の表現面では「前半はゆったりとした曲なので悲しい表情だったりゆっくりとした表情をつくって、後半は激しく踊ることをテーマにしています」との言葉通り、曲調の変化に合わせて滑りだけでなく表情も一変させ、演技後はスタンディングオベーションでたたえられた。 氷上では大人っぽい雰囲気を漂わせながらも、キス・アンド・クライでは大好きなアニメ『クレヨンしんちゃん』のキャラクターをあしらったティッシュケースを抱きしめながら得点を待つ13歳。憧れであり、日々のお手本にしているのが羽生結弦(29)、浅田真央、キム・ヨナ(33)の偉大な3人のスケーターだと語る。 「羽生選手はジャンプもスピンもスケーティングも全てが綺麗で、すごいなって思いますし、浅田真央選手はステップだったりトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)がすごい。そしてキム・ヨナ選手の表現力を真似できたらいいのかなと思ってます」 両親からもらった名前の「奈」には、「大きく示す」との思いが込められているという。15歳の島田麻央(木下アカデミー)と同様に、年齢制限によって2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪には出られないが、2030年冬季五輪に向けて期待は高まるばかり。 「全日本選手権のトップ選手にはやっぱり全然かなわない部分もたくさんあると思うので、そういうところをもっともっと磨いていけるように、また練習を頑張っていきたいと思います」 2月28日に台北で開幕する世界ジュニア選手権では、どんな一面を見せてくれるのか、目が離せない。 取材・文:秦野大知
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