ライバルはUberEatsと出前館…弁当チェーン大研究!″四天王″の中で最強はどこだ!
もう、「ただの弁当屋」では生き残れないのかもしれない――。 角川大映スタジオがある京王多摩川駅(東京)の改札を出てすぐ、高架下に「キッチンオリジン京王多摩川店」はある。 【図解】弁当チェーンの四天王が火花を散らす!「人気メニュー」一覧 入ってすぐ目に飛び込んでくる棚には、大きなおにぎりが並ぶ。コンビニの小ぶりなものの1.5倍はあろうかというサイズでラップに包まれた見た目は、「家庭の味」を想像させる。その反対側には、野菜を中心とした総菜が小分けにされたカラフルなパックが並ぶ。 仕事帰りと思(おぼ)しき40~50代の男性がその中の一つを手に取った。新商品の「オクラと長芋のジュレ仕立て」(100g 203円)だろうか。健康に気を遣っているのか、男性は続いてレジで「野菜炒め弁当(醤油)」(538円)を注文して会計を済ませ、商品を受け取って店を――出ずに店内に留まった。 「ここは、イートインがあって飲食店のように使える店舗なんですよ」 フードジャーナリストの長浜淳之介氏が、イチオシの「炭火焼きさばの彩り幕の内弁当」(734円)を食べながら話す。 「作りたてをすぐに食べられるので、さばのポテンシャルを損なうことなく味わえる。10席あるカウンターには充電用のコンセントがあり、冷水機も用意されている。食後には70円と衝撃的な安さのコーヒーを楽しむこともできます。 自分でよそう豚汁と、おにぎりを朝食として楽しむ使い方もできる」 キッチンオリジンは「オリジン弁当」を運営するオリジン東秀が’14年の2月にオープンした、「従来の弁当に加えて量り売りの総菜とサラダも楽しめる」形態の店舗だった。ただ、コロナ禍を経て、現在はほとんどの商品が小分けパック入りでの提供となっている。 「持ち帰り弁当事業を行っていた中華料理店『中華東秀』が、’94年に川崎市で始めたのがオリジン弁当。以降’98年に100店舗、’04年に500店舗を達成するなど順調に業績を伸ばしていきました。そんななか、’05年に次世代型コンビニエンスストアの事業化を計画していたドン・キホーテが買収に乗り出したのです。しかし、オリジン東秀はこれを拒否。『ドンキに買われるくらいなら……』と、イオン傘下に入りました」(飲食業プロデューサーの須田光彦氏) この買収劇により、オリジンは、一部イオンや系列ドラッグストアのウエルシアに商品を提供するなど、販路を広げていった。 「オリジンは野菜を豊富に使う中華料理をルーツに持つため、揚げ物メインの弁当が多い他社とは異なり、野菜とタンパク質の組み合わせでのメニュー開発をできるのが特徴です。オリジン東秀は野菜を武器にして女性客を取り込むべく、オリジン弁当からキッチンオリジンへの業態転換を急速に進めています」(須田氏) 現在、オリジン弁当は26店舗しか残っていないのに対し、キッチンオリジンは382店舗を展開している。 野菜たっぷりの総菜が特徴のオリジンに対し、昔ながらのガッツリ弁当を得意とするのは、全国に837店舗を展開する「ほっかほっか亭」だ。 「’76年に田渕道行氏が埼玉県で創業した持ち帰り弁当店が起源で、’78年にFC展開を開始しました。ほっかほっか亭が登場する前は、できたてアツアツの弁当を販売する店がなかったんです。そんななか、『オーダーが入ってから作る』をコンセプトに、文字通りほっかほっかの品を提供する店として、爆発的な人気を博しました。持ち帰り弁当の定番メニュー『のり弁』も、ほっかほっか亭が生み出したものです」(飲食業界紙記者) 全国展開に伴い、ほっかほっか亭は、’85年に3地域本部制を導入。東日本をダイエーに、関西はハークスレイに、九州はプレナスに、と3つの企業が店舗運営を担当。’99年にダイエーが東日本の営業権をプレナスへ譲渡し、プレナス・ハークスレイ体制に移行すると、最大で3294店舗を運営する巨大チェーンへ成長していった。ところが――。 「’06年ごろから、全店舗のうち3分の2を運営していたプレナスと、ほっかほっか亭総本部との関係が悪化。’08年にプレナスが独立して『ほっともっと』を立ち上げたのです。この訣別により、ほっかほっか亭は業界3位に転落。現在では、’90年代の拡大期にFC店舗のオーナーになった人々の高齢化という課題にも直面しています。当然、常連客も高齢化し、後継者不足の問題もある。かつての絶対王者はピンチを迎えています」(前出・須田氏) ◆いちばん攻めている弁当チェーン ほっかほっか亭分裂騒動の間隙を突いて一気に首位に立ったのは、関西を中心に拡大していた「本家かまどや」だった。 「’80年創業の老舗。都内には7店舗しかないのであまり知られていませんが、関西では有名です。持ち帰り弁当は濃い味付けが定番ですが、かまどやは薄味で、だしの効いた家庭的な味付けが人気なのです」(フードアナリストの重盛高雄氏) トップに立った’08年は2300店舗を展開していたかまどやだが、現在は約400店舗にまで減少している。 「かまどやは創業者である金原弘周氏のワンマン経営で、メディアへの露出も公開情報も少ない謎多き企業です。恐らくマーケティングやブランディングでトップに返り咲こうという考えはなく、あくまで『関西のお弁当屋』を貫いた結果でしょう」(前出・記者) かくして、ほっかほっか亭と袂を分かったほっともっと(2444店舗)が、現在の弁当チェーン業界のトップに君臨するに至った。 「源流であるほっかほっか亭の流れを汲み、揚げ物やのり弁といったガッツリ系が主力。独立以降、順調に拡大していきましたが、’18年に『から揚弁当』でつまずいた。価格据え置きでボリュームアップするというリニューアルを行ったのですが、原価率が約半分にまで上がり、利益率が下がったことで、直営の190店舗を閉店するに至りました。最近ではとんかつ、ハンバーグを自社工場で加工したり、米を自社で生産したりとコスト削減に動いていますが、利益率の向上にはあまり寄与していない。都心のビジネス街にある店舗がコロナ禍で大打撃を受けたことで、プレナスは焦っているのかもしれません」(前出・須田氏) Uber Eatsや出前館が普及し、「持ち帰りからデリバリーに」という流れが定着しつつある令和の時代で、弁当チェーンは窮地に立っている。カギを握るのは、意外にも王者に店舗数で5倍以上の差をつけられているオリジンだという。 「できたてアツアツのお弁当もあれば、パックに入った総菜もある。棚に並んだ商品は、賞味期限が近づくと値引きがあるし、まとめ買いで安くなるキャンペーンも頻繁に行われている。野菜中心のデリも豊富で、4社の中でいちばん攻めている。弁当チェーンから『総合総菜屋』へ――そんなオリジンが次の盟主となるかもしれません」(前出・重盛氏) 一大帝国を築いた元盟主が腹心に刺されて失速し、王者は巨体を持て余し、三日天下に終わった関西の雄は地元で守りを固め、古豪が新たな挑戦で天下をうかがう。弁当チェーン四天王の、さながら戦国時代のような栄枯盛衰。アツアツな争いは、第2章を迎えつつある。 『FRIDAY』2024年6月7・14日号より
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