わずか187票差!杉並区長選の舞台裏 劇作家がドキュメンタリー映画を監督
わずか187票差の勝利。そんなドラマチックな首長選挙が2022年6月にあった。東京都杉並区の岸本聡子区長が、大接戦を制した選挙に密着したドキュメンタリー「映画 ◯月◯日、区長になる女。」が、2024年1月2日から映画館「ポレポレ東中野」(東京都中野区)で上映されている。選挙とは縁遠かった劇作家・演出家のペヤンヌマキさんが、一人の住民としてカメラを回し、初監督した映画作品だ。ペヤンヌさんに、撮影にかけた思いを聞いた。 【写真】大接戦を制して杉並区長に当選した岸本聡子さん(提供)
地域コミュニティに参加
ハイボールを片手に岸本さんが、選挙準備の状況を愚痴る。「夜までスケジュールをこなして、朝街宣は辛いんだよね」。自宅の部屋で、床にあぐらをかいて座り次々に”本音”を漏らした。 ペヤンヌさんに、作品の中で好きな場面を聞くと、この場面だと教えてくれた。そして、「岸本さんが飾らずに、愚痴も聞かせてくれる。それに、選挙の応援に来た人たちの表情が生き生きしていました。面白い撮影でした」と話した。 ペヤンヌさんは2010年から、演劇ユニット「ブス会*」を主宰。テレビドラマの脚本なども手がけ、現代に生きる女性を優しさとシニカルが共存する視点で描いてきた。杉並区に住んで20年だが、これまでは地域のコミュニティと関わりがなく、東日本大震災の際などには「孤独を感じていた」という。 「この映画の撮影では岸本さんという候補を通して、地域のさまざまな人と繋がって、みんなの話になった。撮影で出会った人たちと”ご近所さんの関係”ができたので、これから生きていく上で災害時などにも心強いと思っています」
20年住んだアパートと街の危機
そもそもペヤンヌさんは、なぜ選挙に密着したのだろうか。 「知らないうちに近所で道路建設の計画が進んでいて、20年住み続けたアパートから立ち退かなければならないらしい。そんなの嫌だな、と思ったのが始まりです」とペヤンヌさん。住まいの危機という身近な困りごとがきっかけだった。 ペヤンヌさんが調べてみると、区内には他にも”至る所”で道路拡張計画などがあった。そして、地域の住民たちが「反対」を訴える行動を起こしていた。開発を止めるには、現職区長の4選を阻止することが必要らしい。そんな中、ヨーロッパのNGO職員だった岸本さんが投票日(2022年6月19日)の2か月前に帰国し、住民グループに候補者として擁立された。 岸本さんを擁立した「住民思いの杉並区長をつくる会」の集会では、さまざまな市民活動に携わっている人たちがマイクを握り、次々にアピールする姿があった。「政党ではなく市民グループが候補者を擁立したというところに興味が湧きました」とペヤンヌさん。