『虎に翼』法曹として母として辿り着いた最終章 桂場との問答が明らかにする“法とは何か”
『虎に翼』(NHK総合)第129話では、寅子(伊藤沙莉)がキャリアの最終章を迎えた。 【写真】おでこに桜の花びらをつけたお茶目な桂場(松山ケンイチ) 美位子(石橋菜津美)と出かけたはずの優未(川床明日香)は玄関にいた。写真の優三(仲野太賀)に語りかける寅子を優未は見つめる。母は自分に対して子育てを失敗し、後悔があるのではと気にしていたのだ。寅子に向かって「好きなこととやりたいことがたくさんある」と言い、「最高に育ててもらった」と語る優未を、寅子は抱きしめる。 裁判官、母、一人の人間として、いくつもの顔を寅子は持っている。その中で、母である寅子は「正解」だったのか。優未に自分を責めるなと話す寅子自身が、内心では親子のあり方を模索し、葛藤してきた。決まりきった正解はないが、矛盾に苦しむ寅子を優未は一番近くで見守っていた。 再婚以来、姿を見せなかった優三のイメージが登場し、スチュアート・マードックの歌う「You are so amazing」をバックに言葉を交わすシーンは思わず涙腺がゆるんだ。優未を育てあげ、自分自身も夢中になってなすべきことに没頭した寅子は、優三との約束をはたしたことになる。航一が入ってきて、いつかのように寅子に泣いていたか聞く台詞で、航一の現在に巻き取る構成も巧みだった。 第129話では、猪爪家と明律大学女子部のメンバーも勢ぞろいした。アメリカから帰国した直治(今井悠貴)と横浜家裁の所長に任命された寅子を祝うため集まった家族は、さらににぎやかになり、それぞれの人生を歩んでいる。ともに辛酸をなめた女子部のメンバーは、紆余曲折を経て、気づけば多くが法曹として活躍。梅子(平岩紙)のいる「笹竹」で会話が弾む中、姿を見せたのは最高裁長官を退官した桂場(松山ケンイチ)だった。
すでに観てきたように、寅子と桂場の対比は本作を貫く大きな軸になっている。寅子が挑む壁が桂場であり、その壁は、司法の独立を守る砦として厳然と存在し続けた。桂場との会話は独特の間合いがあり、ユーモラスな描写も多くあったが、なかでも、寅子が女子学生や駆け出しの弁護士だった頃から、桂場との問答を通じて「法とは何か」という根源的な問題に光を当ててきたことが特筆される。 盾、傘、暖かい毛布から、守るべき水源、そして「人が人らしくあるための尊厳や権利を運ぶ船」へ。弱者を守る防壁という実感に即した役割から、客観的真実性を帯びた規範、そして、この社会でみなが生きていくための器へ。寅子の洞察は、彼女が成長し、法律家として経験を積んでいく過程と軌を一にしている。より大きくて包容力のあるもの、血の通った存在として法律をとらえることは、今なお重要なテーマである。 社会情勢や判例変更というマクロの出来事と、家族や身近な人々との日常は決して無関係ではない。寅子の言葉は両者がつながっていること、『虎に翼』というドラマの到達地点を示すものでもあった。
石河コウヘイ