「ストレイチルドレン」レビュー
新作RPG「ストレイチルドレン」が、12月26日にNintendo Switchでリリースされた。本作は名作と名高いRPG「moon」を手掛けた木村祥朗氏が代表取締役社長を務めるオニオンゲームスの新作タイトルだ。 【この記事に関する別の画像を見る】 公式サイト上では「ちょっとビターな童話風RPG」と銘打たれており、「moon」を彷彿とさせるビジュアルも印象的。ただし本作の魅力はノスタルジックな世界観だけではなく、今を生きるプレーヤーの心に“刺さる”仕掛けがいくつも用意されている。 今回はそんな本作をクリアまでプレイしたので、「どんな仕組みのゲームなのか」、「一体どんな魅力があるのか」といった点を詳しくレビューしていきたい。なお、ネタバレに配慮するため、核心的な情報や中盤以降のストーリーには触れずに内容を紹介しているので安心してほしい。 ■ “エグい”現実が隠されたファンタジー世界……「ストレイチルドレン」のストーリー まずは本作のストーリーについて、ざっくりとまとめておこう。 プレーヤーが操ることになるのは、犬の顔をした少年。物語は彼が誰もいない家で目覚めるところから始まる。どうやら少年の父親は謎の失踪を遂げてしまったらしく、突如訪問してきた自称「遠い親戚」のケンケンという人物が、父親の居場所に心当たりがあると言って道案内を始める。 そしてその先にはレトロゲームで満たされた「秘密基地」があり、謎めいたソフトが刺さったゲーム機の電源をうっかり入れてしまった少年は、テレビへと吸い込まれていく……。 テレビのなかでは怒涛の展開が巻き起こるのだが、その内容は実際にプレイする時のお楽しみとして、あえて詳細を伏せておこう。ここまではチュートリアルであり、冒険が本格的に始まるのは狂騒が過ぎ去った後、少年がコドモしかいないおかしな世界に降り立った後のことだ。 その世界では“オトナ”がコドモとは根本的に異なる生き物として危険視されており、森のなかに足を踏み入れると、「オトナ出没注意」と記された標識と出くわす。そして実際に、狂暴なモンスターのようなオトナが次々と襲い掛かってくるのだった。 そんな危険な世界にあって、プレーヤーの目的はバラバラになった“勇者のカケラ”を集め、父親を復活させることにある。そのためにさまざまな国を訪れ、時には謎を解き、時にはオトナたちと戦いながら、冒険を繰り広げていく。 しかも道中に出てくるのは、いずれもユニークな国ばかり。カエルの格好をしたコドモたちであふれる「カエルの国」や、キノコのようなコドモが暮らす「ねむりの国」など、まるで絵本のようにメルヘンでファンタジックな世界が広がっている。 だが、それはあくまで表向きの見え方に過ぎない。実際にはほとんどのコドモたちが、その国を支配する“ボスオトナ”によって、不条理なルールを押し付けられている。たとえば「牢獄の国」では、コドモたちは自身に課せられた罪をつぐなうため、ゴミ拾いなどの善行に勤しんでいる……といった具合に。 おそらく旅を進めれば進めるほど、美しい世界とグロテスクな真実とのギャップに驚かされることだろう。 ■ ゲームの大まかな流れは? 探索パートと戦闘パートの仕組み 主人公がさまざまな国を旅して回るのが、本作の基本的な流れ。その内容をより細かく説明すると、街での探索パートと街の外での戦闘パートの2つに分かれている。 プレーヤーは新たな国に足を踏み入れた際、常識やルールを何も知らない“異邦人”として扱われる。そこで探索パートが始まり、住人のコドモたちに話を聞いたり、街の隅々まで調査を行なったりしながら、その国を支配するボスオトナのもとを目指すことになる。 しかも探索パートは一筋縄ではいかない作りになっており、そう簡単にはボスオトナと対面することは叶わない。攻略を進めるには、住人たちの言葉をしっかり聞いて推理を行ない、隠されたギミックの仕組みを突き止めていく必要があるだろう。 一方で戦闘パートでは、オトナとのランダムエンカウントが発生するフィールドが舞台に。基本的にオトナは狂暴なので、エンカウントすると向こうから襲い掛かってくる。戦闘システムはちょっとしたミニゲームの形式となっており、プレーヤーはオトナの攻撃をひたすら移動して回避することでダメージを抑えられる仕組みだ。 戦闘時のミニゲームはオトナの種類によって異なっており、かなりバリエーション豊富。しかもその性格や個性を強く反映したものとなっているため、新たなオトナと遭遇するたびに好奇心をくすぐられる。 単純に相手が発射する弾を避けるようなものだけではなく、アクション要素のあるミニゲームや、某古典的シューティングゲームのパロディなど、遊び心が存分に発揮されているのが面白いところだ。 そして戦闘時には、プレーヤーが取りうる選択肢が2つある。すなわち「物理的な攻撃によって命を奪う」、もしくは「対話によって魂を“じょうぶつ”させる」ことの二択だ。 攻撃で倒す場合には、「たたかう」を選び表示されるルーレットにあわせテンポよく武器をふるうことによって相手にダメージを与えればいいだけ。敵を倒すごとに経験値が入り、プレーヤーがレベルアップしていくため、オーソドックスなRPGの仕組みと言えるだろう。 だが対話によって攻略したい場合には、頭を使い、想像力をフル活用することが求められる。具体的なシステムとしては、戦闘中に「ことば」を選ぶことで、いくつかの選択肢がコマンドとして現れるという形だ。その中から1ターンに一度、これだと思う言葉を投げかけ、相手の「ココロのカベ」をこわしていくのだが、途中でワード選択を失敗すると逆に怒りを買ってしまう。 要するに相手が求めていそうなワードの組み合わせを考えればいいのだが、その推理材料はフィールドの各地に点在するオトナの“ぬけがら”から手に入る。ぬけがらを調べると、オトナの性格や投げかけてほしい言葉のヒントが示されるのだ。とはいえ一読して「これが答えだ」と分かることはほとんどなく、その情報が何を意味しているのか推理することが重要となる。 緊張感のあるミニゲームに耐えながら相手との対話を進めていくという意味で、言うならばRPG「UNDERTALE(tobyfox)」に近い戦闘システムと言えるだろう。 ■ 「ストレイチルドレン」の魅力はどこにある? “何でもあり”のゲーム体験 最後に本作の魅力についてまとめておくと、まず挙げたいのはストーリーの深さと没入感。一見ノスタルジックで空想的に見える世界でありながら、その設定はどこまでもハードで、リアリティを伴っている。常識的な考え方では、リアルな現実とゲーム内の世界は別物だとされているが、その垣根を巧みに飛び越えてくるのだ。 ストーリーに関してはネタバレになるため詳しくは触れないが、その独特のリアリティの一端は、オトナたちとの対話にも示されているだろう。彼らが抱える心の闇は、いずれも現代社会とつながるような鋭いテーマ性を孕んでいて、思わず没入感をかきたてられる。そして奇妙なルールで動く国々と、そこに生きる住人たちの姿も、たんなるファンタジーでは終わらない残酷さと生々しさを感じさせる。 また、ゲームとしての面白さでいえば“何でもあり”の体験が印象的。メタフィクション的な展開はもちろん、発想の斜め上を行くようなミニゲームの数々など、プレーヤーを飽きさせない仕掛けがいくつも詰まっている。とくにプロローグにあたる部分の勢いは、ぜひ一度体験してみてほしいところだ。 そして“絶妙な難易度の高さ”も、本作の面白さとして挙げておきたい。探索パートも戦闘パートも、決して簡単にクリアできる難易度にはなっておらず、真剣に挑むことをプレーヤーに求めてくる。 とりわけオトナとの対話では、ダジャレや言葉遊びのようなものからハイレベルなクイズまで、実にさまざまな種類の謎解きが用意されている。高度な知的バトルに挑みたい人には、うってつけではないだろうか。 しかもこの対話、ワードの選択を一度失敗すると最初からやり直しになるため、そのたびに敵の攻撃に耐えなければいけなくなる。そして敵の攻撃には即死に近いものもあり、セーブは決まった場所でしか行なえないというハードな仕様だ。 すべてのオトナを成仏させようと思うとかなりの難易度であり、ゲームオーバーも一度や二度では済まないはずだ。 謎に満ちた世界を旅する喜びと、現代社会に生きる人々を突き刺すような痛烈なブラックユーモアに満ちている「ストレイ チルドレン」。“懐かしいのに新しい”という不思議な感覚を味わえるのが、本作ならではの魅力だ。「moon」をやったことがある人もそうでない人も、ぜひこのプレイ体験を味わってみてほしい。 (C)Onion Games, K.K.
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