乱立するフィットネス 多発する事故を防げ! パーソナルトレーナーの先駆者、郡さんが警鐘
街中にフィットネスクラブが乱立し、現代人にとって運動は身近に存在になってきた。コロナ前の2019年に6000件弱だった施設数は23年に1万件を突破(矢野経済研究所調べ)。中でもパーソナルトレーニングを含む小規模型施設が増える一方、事故なども多発。消費者にはより慎重な選択が必要になっている。業界は今、どのような状況にあるのか。パーソナルジムの先駆者と呼ばれるジムフィールドの郡(こおり)勝比呂(かつひろ)CEOに、阪本晋治が迫る。(佛崎一成)
メソッドだけでなく、コミュニケーション力が重要
―もともとは体育の教員を目指していたとか。 そうなんです。でも、大学入試に失敗し、スキー場でアルバイトをすることに。そこでインストラクターという職業に出合い、大手スポーツクラブに就職することにしたんです。マシンジムのスタッフやプールの監視員からのスタートでした。 ―そこからパーソナルトレーナーへはどういう経緯で。 ニュージーランドから音楽と動作を組み合わせたエクササイズ「レズミルズ」が日本に入ってきて「これは面白い」と思い、専属のインストラクターになったんです。ただ、それだけでは食べていけないから、パーソナルトレーナーの資格も取得しました。 ―スポーツクラブ内でパーソナルを提供するとなると、お客さんの満足度は低くならないか。 はい。他の会員様と同じスペース、マシンを利用するので当然、パーソナルのお客様の満足度は低化してしまいます。このため、小さな専用スペースを用意してもらい、共有のマシンは使わずトレーニングを提供できるよう工夫しました。 ―どんなトレーニングを。 電車のつり革を長くしたようなサスペンションを用いるTRXや、丸太のような器具を使うバイパーなど、体の動作を向上させるファンクショナルトレーニングを中心に組み立てました。共有のフリーウエイトを使わないから、順番待ちもない。満足度がアップしましたね。 こうなると、簡単なツールを持ち運べば、場所はどこでもいいという考えに至り、独立することにしたんです。 ―郡さんは実はすごいトレーナーだ。関西で50店舗以上を展開するパーソナルジム「ファーストクラストレーナーズ」を立ち上げたそうだが。 はい。僕のトレーニングを気に入ってくれた方に資金提供してもらえることになり、「ファーストクラストレーナーズ」を創業しました。事業は順調で2年半で11店舗にまで拡大。ところが突然、社長を解任されたんです。最初に株を無償譲渡とするという契約書にサインしてしまっていた。 ―相手を信用し、契約書にちゃんと目を通さなかった。 それも一つですが、資金があれば僕のサービスを広められるという思いが強すぎた。それで頭がいっぱいになってしまっていました。 ―そこから裸一貫で再スタートしたのが現在のジムフィールドか。都心のど真ん中で競合も多かったと思うが、8年も続けているのはたいしたものだ。他ジムとの差別化ポイントは。 僕はずっと、省スペースでできるファンクショナルトレーニングを大事にしてきました。大きなバーベルなどのフリーウエイトを扱って来なかったから、逆にそこを強みにしようと。コンセプトは「遊ぶように鍛える」です。 ―「遊ぶように鍛える」とはキャッチーだ。 長年パーソナルトレーナーをやっていると、いかに続けさせてあげるかが重要だと気づきます。そのためには楽しさが大事なんです。 ―世の中には多くのパーソナルトレーナーがいるが、大きな壁になるのは接客だ。どれだけ良いコンテンツやメソッドがあっても、ワクワクや楽しさを提供するにはトレーナーのコミュニケーション力が重要だ。 おっしゃる通りです。ツールやメソッドは単なる手段。その中でパーソナルトレーナーにしかできないことは何か。物理面では、マシンにはできない手技などを駆使したセッションですが、目に見えない価値はコミュニケーション力です。もっといえばそれはセールス力です。 セールスと聞くと、水や布団、壺などを高く売りつけられるイメージかもしれません。しかし、僕が考えるセールスは〝今ないものをゼロから作る〟こと。お客様自身が気づいていないニーズを引き出してあげることです。 そのために、私たちはお客様の生活スタイルなどの個人情報までお聞きします。この時点では医者と同じ。しかし、医者はお客様の潜在ニーズを引き出すことはしません。医者は立場上、どうしても相手のマウントを取ることになるからです。 お客様を望むべき方向へ導くには本来、同じ目線に立ち、お客様の心に耳を傾けることが大事なのです。 ―最近の学校も先生と生徒のコミュニケーションで悩んでいる傾向がある。 やはり目線を合わせ、相手に共感すること。周波数を合わせることが大事です。子どもに何かを伝えるときには、子どもの目線に立つように、お客様に寄り添うときも目線を合わせることが大事。 ―パーソナルトレーニングが乱立する中で、付加価値を上げるための取り組みは。 大事にしているのは出口戦略です。例えばお客様の一人、60代女性はもともとダイエット目的の入会でした。しかし、今ではトライアスロンやベストボディにも挑戦しており、最近は「ゴルフの先生になりたい」と自身の可能性をどんどん広げられています。 痩せたら何をしたいという出口戦略がすごく大事です。