<’21センバツ・がんばれ神戸国際大付>亡き夫と支える「孫」 寮で働く、藤田八重子さん(72) /兵庫
◇料理で体づくりの後押し センバツに向けて練習する神戸国際大付の選手を陰で支える人がいる。野球部員の半数が住む寮で働く藤田八重子さん(72)だ。最愛の夫を13年前に亡くしたが、選手の成長に励まされながら、料理の腕をふるっている。藤田さんは「甲子園でもいつも通りの力を発揮してほしい」と、今日も選手の体づくりを後押しする。【中田敦子】 学校から徒歩10分の距離にある寮では、野球部員70人のうち38人が生活している。選手たちは午前6時45分に朝食、午後8時から夕食をとる。新型コロナウイルスの感染防止対策で2班に分かれ、藤田さんからおかずやスープを受け取り、ご飯を自分でどんぶりによそう。 鶏肉と野菜のチリソースとスープが用意された1日の夕食。岡田悠作選手は「一番好きなおかず。最高です」と笑顔でほおばり、山盛りのご飯を一気に平らげた。藤田さんは毎朝4時に起きて、夜は長男の将行さん(41)と調理。献立はチームの管理栄養士と相談し、肉と野菜のバランスに配慮している。 藤田さんは夫の正義さんと約40年間、神戸市内で洋食レストランを営んできた。2008年4月に新設された寮の寮監に応募。正義さんは「甲子園を目指す子どもたちに、おいしいものを作ってあげたい」と話していた。しかし、二人で働き初めて1カ月後、正義さんは心不全で亡くなった。62歳だった。 葬儀を終えて藤田さんが寮に戻ると、ごみ箱は弁当の空容器であふれていた。「買った弁当を食べる子どもたちの顔が浮かんで、申し訳ないなって。私がご飯を作らんと」。伴侶を失った悲しみを胸に秘め、前を向いた。洋食屋を営んでいた将行さんも正義さんの思いを継ぎ、店をたたんで一緒に働いてくれた。 寮の食堂にかけている正義さんの遺影にレギュラーになった選手が「背番号もらったで。頑張るよ」と語りかける姿を見かけた。藤田さんは「優しさに救われました」と振り返る。 藤田さんにとって、選手たちは「孫のような存在」だ。岡田選手は入学当初、体が小さく打球も飛ばなかった。藤田さんが「ご飯は最後の一粒まで食べるんやで」と諭したこともあり、今では毎食、約1キロの白米を食べている。体重は入学時から10キロ以上増え、今はベンチメンバーに入り活躍している。 藤田さんは「成長した寮生が、力いっぱいプレーする姿を見るのが楽しみ」と話し、「孫」たちの甲子園での活躍に期待を寄せている。 〔神戸版〕