風邪症状で耳が痛い…「中耳炎」疑って 難聴になるケースも 耳鼻科医に聞く治療法
風邪をひいたときに、耳に痛みが生じることがあります。こうした症状は「中耳炎」と呼ばれており、子どもが発症するケースが多いといわれています。 【画像】中耳、外耳ってどこ? これが“答え”です 中耳炎&外耳炎を見分けるコツも そもそも、なぜ中耳炎を発症してしまうのでしょうか。中耳炎が原因で難症になる可能性はあるのでしょうか。中耳炎の原因のほか、中耳炎とみられる症状が出た際の対処法などについて、わしお耳鼻咽喉科(兵庫県西宮市)の鷲尾有司(わしお・ゆうし)院長に聞きました。
ウイルスや細菌の侵入が原因
Q.中耳炎になる原因のほか、中耳炎の主な症状について、教えてください。 鷲尾さん「中耳炎の中でも子どもが発症するケースが多い、急性中耳炎について解説します。急性中耳炎とは急に中耳炎が起きることを指し、主にウイルスや細菌が鼻の奥(上咽頭)から耳管という管を通って中耳へ急に入り込んで感染を起こします。 中耳炎の主な症状は耳痛です。中耳炎での耳の痛みは通常、1日前後で治まります。他には発熱や難聴、耳閉感、耳鳴、耳漏(耳だれ)などの症状が出ることがあります。 耳漏とは、鼓膜の内側で生じた炎症による膿(うみ)が、鼓膜を破って外側まで出てきたものです。耳漏があると症状が悪化していると思われがちですが、耳漏になると痛みもなくなり、熱も下がることが多いです。しかし、中耳炎を強く疑う症状のため、耳鼻咽喉科を受診してください。 注意点ですが、視診のみでは中耳炎の原因がウイルスなのか、細菌なのかは分かりません。耳以外の症状や経過などを踏まえた判断で治療していきます。特に風邪をひいて間もないときに耳痛が生じた場合は、ウイルス性の中耳炎のケースが多いです。 耳鼻咽喉科では、患者が鼻や喉の調子が悪いと訴えた場合、医師は常に耳への影響に注意をします。風邪をひいているときに、耳に何か症状があれば、中耳炎の可能性を疑います」 Q.なぜ子どもが中耳炎になりやすいのでしょうか。 鷲尾さん「子どもは大人と比べて、構造的に耳管が短くて水平に近いからです。そのため、ウイルスや細菌による中耳への感染を起こしやすいです。 加えて、子どもは口蓋扁桃(こうがいへんとう)やアデノイド(咽頭扁桃)といった喉や鼻の奥にあるへんとう腺が大きいために、それらによる影響を受けやすく、中耳炎のリスクが大人より高くなります。もちろん、子どもは抵抗力が未熟であることも考慮しなければなりません」 Q.中耳炎とみられる症状が出た場合、どのように対処したらよいのでしょうか。また、どのような治療法があるのでしょうか。 鷲尾さん「急性中耳炎の治療は主に『経過観察(風邪の治療)』『抗生剤』『鼓膜切開』の3つです。症状や経過、状況によって治療が選択されますが、必ずしも抗生剤が必要ではないということを知っておくことが大切です。 近年は抗生剤の乱用により、抗生剤が効かなくなった細菌が発生する、いわゆる耐性菌の問題が世界的に生じています。薬(抗生剤)が処方されず、経過観察だけでは心配になることは十分に理解できますが、不安を解消するために抗生剤を使用すると他の問題が生じます。 早期の症状であったり、軽症であったりした場合、必ずしも抗生剤を使用する必要はなく、経過観察で良いと考えられています。中耳炎の治療で一番大切なのは、完治しているかどうかを確認することです。 また、中耳炎が重症であったり、長引いたり、繰り返したりするようであれば、抗生剤に加えて、鼓膜を切開することで中耳にある膿を出すのが有効です」 Q.自分で中耳炎かどうかを見分けることは可能なのでしょうか。 鷲尾さん「症状で中耳炎を疑うことができても、実際に耳の中を見られないため、自分で見分けることは難しいです。ただ、先述のように、耳に痛みを感じたり、聞こえに違和感があったりすれば、中耳炎の可能性があります。特に鼻や喉の調子が悪いときは要注意です。 中耳炎を疑ったときはすぐに耳鼻咽喉科を受診しましょう。中耳炎の場合、完治しているかを確認する経過観察が必要です。 特に小さな子どもの場合は、訴えが乏しかったり、自分で症状を表現するのが難しかったりするため、耳鼻咽喉科で最後まで治療するのをお勧めします」 Q.中耳炎を発症したときの注意点について、教えてください。悪化した場合、どのような症状が生じる可能性があるのでしょうか。 鷲尾さん「中耳炎の経過で注意することは、『炎症が広がっていっていないか』『完治しているか』『繰り返していないか』の3つです。 中耳炎の炎症が中耳だけにとどまらず、周辺に広がっていないかどうかを確認するのは、治療を進めていく上で重要です。耳鼻咽喉科が多くなり、抗生剤が進化している現代では、非常に重篤な症状はなくなっているかと思います。 しかし、聞こえと体のバランスをつかさどる神経がある『内耳』に影響が出ると、感音難聴(神経性の難聴)やめまいが生じることがあります。そのため、難聴が中耳炎によるものか、内耳に影響が出たために生じているものなのかを判断するのが大切です。 内耳由来の難聴であれば、中耳炎のみの治療では改善しない場合があります。もし治らなければ生涯、難聴が残ってしまう可能性があります。 また、中耳炎が完治していないために中耳腔(ちゅうじくう)に滲出(しんしゅつ)液がたまった状態が続く場合があります。この状態が続けば、『滲出性中耳炎』と呼ばれますが、症状は難聴が中心で、痛みや熱などの症状がないのが普通であり、訴えが乏しい子どもの場合、気付きにくいのが特徴です。そのため、何度も言いますが、中耳炎を発症した場合、完治しているかどうかを確認することが大切になります。 また、急性中耳炎を繰り返してしまう反復性中耳炎の場合、鼓膜に穴が開いたままの状態(慢性中耳炎)になることがあります。そのため、難聴が起こり得ます」