実用化の「死の谷」...最先端の治療法の事業化に立ちはだかる「巨大すぎる」障壁
人生100年時代。平均寿命が上がり続けている現代の日本では、そう遠くない未来に100歳まで生きることも当たり前になっているだろう。そんな時代にいつまで現役を続けられるのか? どんな老後の過ごし方が幸せなのか? 医療はどこまで発展しているのか? ノーベル賞学者と永世名人。1962年生まれの同い年の二人が、60代からの生き方や「死」について縦横に語り合った『還暦から始まる』(山中伸弥・谷川浩司著)より抜粋して、「老化研究の最先端」をお届けする。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 『還暦から始まる』連載第7回 『「20年以内にスゴいことになる」ブタの臓器を人間に移植⁉実は日本が一番進んでいた「臓器もどき」のヤバすぎる研究内容』より続く
実用化までの「死の谷」
谷川 「臨床試験」という言葉が何度か出てきましたが、臨床試験から実際の治療に応用できるまで、あとどれくらいかかるものなんでしょうか。 山中 臨床試験というのは、新しい治療法や医薬品を開発するために患者さんに協力していただいて、その有効性や安全性を調べる試験のことです。僕は長い長い治療法の開発で、臨床試験はマラソンにたとえると、ちょうど中間地点ぐらいかなと思っています。ここからが後半戦です。マラソンも後半のほうが大変ですし、リタイアする人の大半は後半です。だから、ここからが本当の勝負どころに差し掛かっていると思っています。 マラソンは一人のランナーが最後まで走りますが、臨床開発の前半は私たち大学とか公的研究機関の研究者が行って、後半は企業でなければできません。いまはちょうどバトンタッチの段階です。そこでけっこうバトンを渡し損ねたり、たすきがつながらなかったりすることがあるんです。つまり細胞医療の特徴として、後半になってゴールに近づけば近づくほどお金がかかるんですよ。すると科学的には期待できても、資金が続かなくなったために断念する例がよくあります。 事業化へのこういう壁を産業界では「死の谷」と呼んでいますけど、ここをしっかりバトンタッチできるよう、2020年に僕が理事長を務める「京都大学iPS細胞研究財団」という公益財団法人を始動させて、企業への橋渡しを一所懸命やっています。