実用化の「死の谷」...最先端の治療法の事業化に立ちはだかる「巨大すぎる」障壁
「臨床開発」というマラソンのゴール
谷川 パンフレットを見ると、「品質を担保したiPS細胞を製造・備蓄し、全国の研究者や企業に公平かつ適正な価格で提供いたします」と書かれていますね。 山中 ベンチャー企業は投資家のお金を集めることがまず大変です。それに比べて大企業はこれまでの実績で資金力はあっても、会社そのものが大きいので、それを維持するためにあまりリスクは取れません。そういうところもあって、橋渡しの難しさを感じています。でもここを乗り切って、できるだけ早くゴールまでたどり着きたいと思っています。 谷川 具体的には、どういう形がゴールになるんでしょうか。 山中 臨床開発のゴールというのは、まず国に製造・販売を承認してもらって、保険適用されるというのが一つのゴールです。でもそれが本当のゴールではなくて、その後、実際に多くの患者さんに投与して効果を見る必要があります。 たとえば、iPS細胞とは関係ありませんが、アルツハイマー病の画期的な治療薬が日米で開発されて、まずアメリカで承認され、次に日本でも承認されて、一つ目のゴールに達しました。ただ、これから多くの患者さんで実際にどれくらい効果があるのかを見極めていかなければならないので、これもまだまだゴールとは言えないんです。 『「60歳の細胞をゼロ歳に戻す」...「山中因子」を使った「若返り」研究の最先端に迫る! 』へ続く
山中 伸弥(京都大学iPS細胞研究所所長)/谷川 浩司(棋士)