村上春樹の原作を演劇に『品川猿の告白』
KAAT 神奈川芸術劇場では、2021年度から劇場が常に考える場、豊かな発想を生み出す場となること、新たな表現の実験、ジャンルを横断したアーティストの交流、様々な情報の収集などの活動を軸にして、劇場の創造活動の核を育てていくことを目指し、クリエーションのアイディアを創造していく「カイハツ」プロジェクトを進めてきた。 今回の『品川猿の告白』もそうした「カイハツ」プロジェクトの一つとして、2021年からイギリスの現代演劇を代表する劇団ヴァニシング・ポイントとの長期に渡るディスカッション、横浜とグラスゴーで行われたワークショップを経て、本格的な日英国際共同制作公演として行われる。 劇団ヴァニシング・ポイントはスコットランドのグラスゴーを拠点とする劇団で、“英国で最もユニークな劇団の1つ”(英ガーディアン誌)と評されている。長塚圭史芸術監督が文化庁海外研修制度でロンドン滞在中に観劇、「彼らの作品を初めて見た時、私はすっかり心を鷲掴みにされました」という劇団で、芸術監督就任時から劇団ヴァニシング・ポイントとの共同制作を模索してきた。今回の公演は、コロナ禍を経てようやく実現した、いわば悲願の作品だ。 KAATでの公演後、2025年にはグラスゴーでの上演とその他英国国内でのツアーも予定されている。 作品は世界中にファンを持つ作家、村上春樹の短編『品川猿』『品川猿の告白』を元にした幻想的な内容だ。同種ではなく、人間の女性に恋し、思いを遂げるために、その名前を盗んでしまう猿の叶わぬ恋の物語をベースに、他者への強制、罪と救済、記憶、そしてアイデンティティといった多層的なテーマを内包している。 第29回読売演劇大賞で杉村春子賞を受賞した那須凜をはじめとする伊達暁、田中佑弥、家納ジュンコの日本人キャスト4人と、劇団ヴァニシング・ポイントのサンディ・グライアソン、エリシア・ダリ、サム・ストップフォード、アイシャ・グッドマンと人形遣いエイリー・コーエンの5 人の英国人キャストが演じる。 日英二ヶ国語が飛び交うダイアローグと独特な視覚的言語を用いて描く。空間造形の中に字幕を組み込むことで、多言語での上演を可能にするという新たなスタイル。英語と日本語を耳にしながら、英語と日本語の字幕を目にしながら、俳優たちの動きを感じる。観客の中でそのすべてが結実していくのが楽しみだ。