実はほとんどの人が忘れている「人間だけの特権」…「未来を想像する」という能力はどうして私たちに備わったのか
---------- 私たちがふだん意識せずに使っている「ことば」には、様々な謎が隠されている。それを知れば、もっと日本語が好きになるだろう。もしかしたら「ことば」を知ることで、より生きやすくなるかもしれない。『日本語の秘密』では、「ポケモン言語学」で知られる言語学者・川原繁人が俵万智(歌人)、山寺宏一(声優)、Mummy-D(ラッパー)、川添愛(言語)と「ことば」の本質に迫っている。 ※本記事は川原繁人『日本語の秘密』から抜粋・編集したものです ---------- 【画像】「クソどうでもいい仕事」はこうして生まれた
「ことばのプロ」たちが集結!
本書は、言語学者である私が近年抱いている「読者の方々に、ことばの様々な側面について、もっともっと知ってもらいたい、そしてもっともっと考えてもらいたい」という想いを前提として、四人の「ことば」のプロたちと語り合った対談をまとめたものです。歌人・ラッパー・声優・言語学者/小説家、彼女ら・彼らがことばとどう向き合っているのか、それを言語学の視点から解釈するとどうなるのか、対話を通してこそ浮かびあがってくる発見と興奮が本書にはつまっています。 また、対談相手の四人は、それぞれの分野で活躍する第一人者として、ことばに関してだけでなく「生きるヒント」についても多くを語ってくれました。ですから、本書には現代を生きる読者に響くメッセージもたくさん込められています。 ここ数年、「ことば」に対する世間の興味が非常に高まってきました。私は言語学の研究を続けて二十年以上になりますが、つい最近までは「言語学を研究しています」と口にすると、「言語学って何ですか?」とキョトンとされることがほとんどでした。言語学という名前すら聞いたことがない、ましてや、言語学がどんな学問なのか知らない人が大多数、というのが正直な感触でした。しかし、最近では「言語学ブーム」というフレーズを耳にするようになったほどで、言語学という学問がぐっと身近になった印象があります。この変わりようには、少々――いや、率直に言えば、かなり――驚いています。 なぜ、ことばに対する興味が高まっているのでしょうか? 私の感触では、大きな理由が二つあると思います。 一つ目の理由ですが、二〇二〇年に始まったコロナ禍を経て、二〇二三年にはChatGPTに代表される生成系AIが台頭しだし、現在我々は「激動の時代」を迎えています。そんな時代において「人間とは何か」について問い直したいと思う人が増えているのではないでしょうか。「人間とは何か」という問いは、哲学・心理学・人類学など多くの学問がその答えを得るために奮闘しています。そして実は、言語学も「人間とは何か」の解明を究極的な目標としてかかげています。言語の分析を通して、「ヒト」という生物学的な種について洞察を得る――これは、現代言語学に通底する信念です。たとえば、現代言語学に多大な影響を与えたノーム・チョムスキーは以下のように述べています。